「一方通行」「死んでもやり直せる」「GMもPLも準備なしにすぐに遊べる」などの独自性が発売前から話題となっている『片道勇者TRPG』(原作・監修:SmokingWOLF、著:齋藤高吉/冒険企画局、カバーイラスト:モタ、KADOKAWA刊)の発売が間近に迫ってきました! 本作は全世界で累計60万ダウンロードを誇る人気RPGのTRPG版。もともと原作者のSmokingWOLF先生もTRPG好き、加えてPCが良く死ぬ=ローグライクゲーム好きな齋藤先生がゲームデザインを担当するとあっては期待せずにはいられません! 10日に開催された直前体験会で、そのシステムを一足先に体験してきたので早速レポートします。これって、凄く新感覚……!
TRPG every day マスコットキャラクター

TRPG界の“ほぼ月刊作家”といえば齋藤高吉先生。2月に『アマデウスリプレイ 神候補たちと冥王の剣(1)』、3月に『インセイン3 インセインSCP』、5月に『アマデウスリプレイ 神候補たちと冥王の剣 (2)』と、驚異のハイペースで作品を発表し続ける齋藤先生の、6月の新刊が人気フリーゲームをTRPG化した『片道勇者TRPG』です!

刷り上がったばかりの『片道勇者TRPG』を手にした齋藤高吉先生。トレードマークのスーツがダンディだ

刷り上がったばかりの『片道勇者TRPG』を手にした齋藤高吉先生。トレードマークのスーツがダンディだ

原作フリーゲームのように気軽に遊べる、シンプルなルール

ご存知の方も多いでしょうが、原作の『片道勇者』はいわゆるローグライクRPG。コンピュータRPGの人気作ドラゴンクエストから派生した『トルネコの大冒険 不思議のダンジョン』がその一つといえば、どんなゲームか思い浮かぶのではないでしょうか。主人公がとても死にやすく、スタート地点からのやり直しを何度も繰り返しながらプレイヤースキルを鍛え上げ、ダンジョンなどのマップを踏破していくゲームです。

また、これは全てのローグライクゲームの共通点ではありませんが、『片道勇者』は何度もプレイすることで、選べなかった選択肢が広がったり、初期から強くなるといったボーナスが蓄積していくなど、死も無駄にはなりません。1プレイ30分程度という気軽さもあり、ついつい何度も遊んでしまう魅力があります。

加えて、その人気を博した独自性の一つが、タイトル通りに“片道”──一方通行なRPGということ。ゲーム中、2Dビューの画面左側から闇が世界を侵食していきます。勇者である主人公でも、この闇には太刀打ちできず、触れれば死あるのみ。このため勇者は闇に触れないよう画面の右へと進みながら、闇を生み出したという魔王を討伐しなければなりません。闇というデッドラインが迫るために、救えないNPCがいたり、行けなかったルートがあったり。プレイを繰り返すことでその悔しさを覆せる楽しさも魅力の一つと言えるでしょう。

ちなみに、原作者SmokingWOLF先生も過去に独自のTPRGルールやリプレイを公開している。フリーゲームのプレイ感覚を大事にした本作と異なり、世界観を前面に出したシステムでこちらも魅力的。齋藤先生も参考にしたという。

そのTRPG版『片道勇者TRPG』の発売を6月18日に控えた10日、メディア向けの先行体験会が角川第三本社ビルで開かれました。当日にGMを担当してくれたのはデザイナーである齋藤先生ご自身。しかも、遊べたセッションは体験会では異例の2回。驚いたことに合計でわずか2時間しか掛かりませんでした

これほど短時間でセッションを回せた理由の一つに、遊び方を説明するインストの時間がほとんど要らず、すぐに遊び出せるルールがあります。

キャラクター作成は、4種類ある初期クラス(職業)から1つ、11種類ある初期特徴2つを選べば完成です。能力値や装備品、所持金は職業ごとに決まっており、後は名前を決めるぐらい。すでにプレイしたいPCのイメージがあるなら、5分とかかりません。

行動の成否を決める判定も、6面体ダイス2つの合計数を、関連する能力値に足すだけとシンプル。TRPGを遊んだことがないという人も、ほとんど悩むことなく参加できるでしょう。
かくして生まれた勇者パーティは次の3人。

[獣人][生存力]の狩人リバーパンダ(記者)
[耳長][筋力+]の剣士ダーナー
[アンデッド][生命力+]の騎士トラキチ

[]でくくったのは各PCが選んだ特徴です。「獣人」や「耳長(エルフのような種族)」がある通り、本作では種族も特徴の一つに過ぎず、セッションを繰り返すたびに変更して構いません。

クラスは、記者が遠距離攻撃を得意とする「狩人」、仲間は物理攻撃を得意とする「剣士」、防御力が高い「騎士」を選びました。ちなみに、選ばれなかった「理術士」はいわゆる魔法使いで、覚える魔法(フォース)によって攻撃や回復などできることが変化する選択肢の広いクラスでした。

一般的なファンタジーTRPGなら、前衛・後衛といったクラスのバランスを考えるところですが、『片道勇者TRPG』では気にする必要はありません。実際、セッション中はPCがバラバラに行動しても問題ないようになっており、極端な話、PC全員が同じクラスでも問題ないという印象を受けました。

“片道”を再現したマップで次々にイベントをこなせ!

そんなPCで挑戦するセッションでは、闇から逃れて左から右へと冒険していく原作を表現したセッションマップを使用します。1日ごとに1マスを進み、イベントをこなして成長したり、アイテムを入手したりとPCを強化していきます。ただし、右端の「世界の果て」が魔王を倒すタイムリミットで、たどり着いたらそのセッションは終了です。とはいえ、ローグライクゲームらしく何度も遊んで強化していくのが基本的な遊び方なので、初回から魔王討伐を狙うのは現実的ではありません。

原作を上手く落とし込んだセッションマップ。スタート地点はもちろん王城から。写真の2日マップから最大6日分まで用意されている

原作を上手く落とし込んだセッションマップ。スタート地点はもちろん王城から。写真の2日分マップだけでなく、最大6日分まで用意されている

セッションマップのマスごとに起こるイベントは、GMがシナリオとしてあらかじめ決めても構いませんし、ダイスでランダムに決めても構いません。1日目、記者のPCと仲間が2人で向かったマスは「小さな村」という場所こそ決まっていたものの、登場するNPCはランダムでした。そこで現われたのが「怯えた群衆」。

GM:闇が迫る中、彼らは世界を救える勇者を怯えながら探し求めていたようです。「あれが勇者じゃないか」と君たちを取り囲んできます。
リバーパンダ「……君のことだと思うよ」とダーナーの後ろに隠れる。
ダーナーじゃ、率先して行きますかね(笑)
GM:イベントでは関連した能力値での判定を行うんですが、今回は魅力です。
2人(キャラクターシートを参照して)……0ですね。
GM:じゃあ、ダーナーが魅力0、協力するリバーパンダも0なので、ボーナスは0ですね(うれしそうに)

イベントは、同じマスにいるPCが全員参加します。判定をするのはメインとなる一人だけですが、残るPCが「協力」することで判定値に、能力値分のボーナスを追加できます。ただし、この上限は「好意」という親密度の値に制限されます。とはいえ、今回はそもそも能力値が0なので、協力判定は効果を発揮しませんでした。

判定の目標値は、基本的に日数に応じて上がっていきます。初日でもボーナスがなければ五分五分以下ですが、6日セッションとなれば最終日の目標値は13にもなります。早めのレベルアップや協力をしなければ、クリアは困難です。

GM:判定にボーナスを得られる「ジャッジ」というルールもあります。イベントごとに設定されているもので、今回は「勇者としての抱負を人々に語る」というロールプレイをこなせば良い。群衆は「お前ら勇者なのか、本当に助けてくれるのか」と口々に問いかけてきますよ。
リバーパンダじゃあ、後ろから怯えたパンダも「ダーナー、君ならやれるよっ」(笑)
ダーナー後ろと前からプレッシャーが(笑)。じゃあ、「怯えることはない。このパンダのように俺の後ろに隠れて、付いてこい。俺が守ってやる!」
GM:なるほど、OKとします! では、ボーナスが+1になって出目7以上で成功ですね。
ダーナー(ころころ)よし、成功!
リバーパンダ素晴らしい! あ、こっち何もしてなかったな。

イベントの判定に成功すれば参加したPC全員が経験点を獲得する他(貢献できてないリバーパンダも経験点を獲得しています)、判定のメインとなったPCはさらにアイテムやお金を入手することもあります。このイベントでも、「そこまで勇ましいことを言ってくれる勇者なら」と群衆からアイテムを託されました。こうして入手できるアイテムは基本的にランダム。自分のクラスに不向きなものを入手することもありますが、仲間に渡したり、予備武器として持っておくなどもできます。強力なレアアイテムなら、それに合わせて次のセッションのクラスを変えるのもいいでしょう。

イベントでは戦闘も発生するのですが、この戦闘処理も実にシンプル。たった2回の判定──攻撃が敵に命中するか、そして一撃で倒せるか──で勝敗が決まります。命中さえすれば戦闘の勝利は確定します。ただしPCのダメージが敵のHPを上回れなければ反撃を食らった上での勝利に、上回ればノーダメージでの勝利になります。命中しなければ敵からの反撃を受けた上で敗北となりますが、経験点は得られます。また、逃走判定に失敗しても、ダメージを受けて死亡しなければ逃亡はできます。長丁場のセッションほど、LIFE(いわゆるHP)やスタミナ(行動・移動のたびに減少)の温存が重要になるので、無駄な戦闘を避けるための見極めも重要になりそうです。

レベルアップよりも重要な成長要素「引き継ぎ」

本作のPCは、セッション中に獲得する経験値でどんどんレベルアップします。スタート直後なら2レベル一気に上がることも珍しくないほどです。レベルが上がれば、クラスごとに決まったスキルを習得したり、能力値が上昇する他、戦闘ではレベル分ダメージが追加されるので、積極的にレベルを上げていきたいところ。これらはクラスごとに用意されたキャラクターシートに記入されているので、レベルアップのたびにルールブックを確認する必要はありません。こうしたシート類の工夫もセッションのスピードアップに一役買っています。

1セッション目では、記者のPCは6レベルまで成長しました。しかし、装備は初期装備のまま。魔王には到底勝てそうになく、世界の果てまでたどり着いたところでバッドエンディングに。もはや世界の全てが闇に侵食されてしまい、勇者たちは世界を救うことができなかったのです。なら、せめて闇に一太刀を浴びせてから死んでやる──残念! 私たちの冒険はここで終わってしまった、とならないのが『片道勇者TRPG』です。

本作での討伐目標となる魔王。単に強いだけでなく、アイテムの破壊など嫌らしい妨害も仕掛けてくる。ただし、ルールブックには魔王を上回る強敵のデータも……

本作での討伐目標となる魔王。単に強いだけでなく、アイテムの破壊など嫌らしい妨害も仕掛けてくる。ただし、ルールブックには魔王を上回る強敵のデータも……

PCがどんなエンディングを迎えようとも、次のセッションにPCを転生できるのです。何より重要なのは、セッション中の活躍や所持金などによって入手できる「伝説ポイント」を使って、次のPCの初期状態を強化できること。たとえば、新たな特徴を選択可能にしたり、引き継げるアイテムを増やしたりできます(これらを記録するための「伝説シート」も用意されています)。クエストのクリアによって解放されるクラスや特徴も数多く、初期に選べるものより強力なものばかりです。また、魔王との戦闘を考えれば強力な装備品や長期戦に耐えるためのアイテムも入手しておきたいところです。

……と考えていくと、万全を期すために何度もセッションをしたくなってしまいますね。『片道勇者TRPG』恐るべし!

最短の2日セッションということもあり、1回目のセッションで得られる伝説ポイントはさほど多くありませんでした。どのプレイヤーも引き継げるアイテム数増加に伝説ポイントを使うだけで、いざ2回目! 2回目のセッションもPC作成から(レベルも1から)やり直します。前述の通り、PC作成はすぐに終わる上、転生ですから全く違うキャラクターを作っても構いません。耳長種族の剣士が、アンデッドの理術士になってもいいのです。

しかし、体験会では1回目のセッションで魔王によって武器を破壊されたPCがいたことから、全員が予備武器の重要性を痛感し、引き続き同じクラスで挑戦することにしました。初期装備は転生のたびにもらえるので、前回の初期装備が破壊されていなければ予備として所持した状態で2回目に挑戦できるわけです(所持重量の制限はありますが)。

かくして2回目でも数々のイベントが巻き起こりました。トラキチがダンジョン「暗黒TOKYOドーム」でアンデッドと化した故郷の野球仲間と戦ったり、絶望した獣人フェチの老人をダーナーが鼓舞したり、元気になった獣人フェチの老人にリバーパンダが襲われたりといった苦難(?)を乗り越え、ついに魔王に刃を──

──届かせられませんでした。

いや、全然無理です。魔王のステータスはセッション日数に反比例して強くなるため、短時間向けの2日セッションでは念入りに強化してからでないと勝てません。というわけで、「三週目だ!」「いや、次は4日セッションで!」と目の色が変わる参加者を尻目に、無情のタイムアップが告げられました。気付けば2時間で2セッションが終了していたのです。無念。

原作に真っすぐに向き合った『片道勇者TRPG』

6/18発売の『片道勇者TRPG』の表紙がこちら! ドラゴンブックサポートショップやメロンブックスでは販売特典が付くので、早めの購入をオススメする

6/18発売の『片道勇者TRPG』の表紙がこちら! ドラゴンブックサポートショップやメロンブックスでは販売特典が付くので、早めの購入をオススメする

このように『片道勇者TRPG』は原作を丁寧に再現しつつ、TRPGらしさも兼ね備えた独特の作品です。

原作への丁寧さは、世界観はもちろん、プレイ感覚の再現にもよく現われています。1回30分ほどでプレイできる原作のように、死んでも気軽に「ダメかー! よし、次のセッションやろう!」と続けられます。

また、原作ではイベントをこなすことで、新たなクラスが解放されたり、関わったNPCの姿に成り代わることができました。TRPG版でもセッションごとに1人1つ選べる「イベントクエスト」をクリアしていくことで、新クラスやNPCのPC化を開放できます。原作『片道勇者』のトゥルーエンドまでを完全再現できるという看板に偽りはありません。

一方で、TRPGのセッションというと一つの物語としての完結を求めてしまいがちですが、本作のエンディングの多くは死亡エンドか、世界の果てを見届けるバッドエンド。1セッション終わった時点で、物語に一区切りが付くことはまれです。しかし、「闇から世界を救う」という大目標に向け、転生を繰り返しながら遊ぶのはまた違った楽しさがあります。それに、PCは転生しますが、過去のセッションの出来事が無になるわけではありません。セッションでのイベントやロールプレイが物語の伏線のように生きるとともに、参加者の思い出にもなるはずです。原作が多様なイベントクリアや未知のエリア踏破のためにプレイを繰り返し、それがプレイヤーの知識や思い出となったように、『片道勇者TPRG』もセッションやジャッジのためのロールプレイが次につながっていきます。コンピューターRPGっぽさを多分に含んだ、新しいTRPG感覚をぜひ皆さんにも体験していただきたいところです。

齋藤先生は「(初めてTRPGに触れる原作ファンも居ると思うので)なるべく単純に、簡単にを意識しました。かといって(原作要素を)切り落としすぎると原作ファンの皆さんの期待と外れてしまう。愚直に、真っすぐに原作のテイストを活かそうと考えたゲームです。原作の『片道勇者』を1プレイ遊ぶくらいの気軽な気持ちで、楽しんでもらえれば」と語りました。そして、TRPGに慣れたユーザーには「トゥルーエンドクリアは『結構難しいぜ』と言っておきたい。転生を計画的に取り組んでいってもかなり厳しい強敵。クリアできるものならしてみやがれ!」と吼えるなど、最後まで齋藤節は健在でした。

今夏にSmokingWOLF先生製作のtwitterゲームなど新企画目白押し!

TRPGに留まらず、『片道勇者』はtwitterゲームも展開します!

「twitterゲーム×TRPG」といえば昨年の「グランクレスト大戦」の盛り上がりも記憶に新しいところでしょう。グランクレスト大戦が三つの勢力に分かれて争ったのに対し、『片道勇者オンライン』では大陸を選んで参加します。ゲームでは、アプリから自分のキャラクターの行動を選んで、ランダムで出る結果をツイートすることで探索ポイントなどが計上されていきます。さらに、この探索ポイントは大陸ごとに計上され、一定のポイント数を上回るとその大陸だけの新たな展開やイベントの発生が起こるとのこと。

その製作は、原作者であるSmokingWOLF先生。しかも完全オリジナルのストーリーであるため、原作・TRPGいずれのネタバレもなく、安心です。

その開始時期は6月中旬(13日~の週を予定)ともう間近です。twitterアカウントさえあれば無料で参加できるのはグランクレスト大戦と変わりません。1カ月強の期間限定なので、忘れず最初から参加していきたいところです。展開次第では、開催期間後も何か特別なイベントが起こり得るかも……?

さらに、3月の発表会でも告知されていた、SmokingWOLF先生によるテキストリプレイが7月から、ニコニコ動画で数々の人気作をアップしてきたブリッツP(ルールブックの公式リプレイにもプレイヤー参加)による動画リプレイも今夏には公開予定と、楽しみな企画が目白押しです。

齋藤先生自身も「世界の果てから折り返して闇の中に突入する『往復勇者』は形にしたい。また、(原作要素として)NPCをTRPG版のデータとして増やしていくことも重要と思っています。さらに、プレイヤーが少ない時はNPCを仲間として連れていければ楽しいですよね」とさらなる展開を検討中とのこと。6月18日の発売後も、『片道勇者TRPG』の動きから目が離せません! さらに、7月には『キルデスビジネス』の新作サプリも控えるなど、執筆ペースが心配になる齋藤先生の今後にも大注目です!(ご自愛ください!)


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