2019年11月3日に開催された「朱鷺田祐介オンリーコンベンション」は、7卓が埋まる盛況ぶりでした。朱鷺田氏をはじめ、その制作をサポートしてきた西上柾氏、岡和田晃氏がゲストに招かれ、セッションに、プレゼント大会に、懇親会にと盛り上がりました(リンク:前編記事)。

中でも大変興味深かったのが、コンベンション終盤に行われた3氏によるトークショー。1時間が足りなく感じるほどに、次々に話題が展開しました。その模様をお届けします。

ラスボスよりも強いPCを作成してきたユーザー

西上氏との出会いを生んだ『真・女神転生TRPG覚醒編』

1987年に雑誌『ウォーロック』でデビューして以来、作家として32年目を迎えた朱鷺田氏。10作品以上を制作し、3作品の翻訳に携わってきただけに「全てを語っていると時間が足りない」と、まず両腕といえる西上氏、岡和田氏との出会いから振り返りました。

朱鷺田「西上君は『シャドウラン』の翻訳をはじめ、ここ十数年、システム面のサポートをしてくれている。最初の印象は、20世紀最後のあたり、『真・女神転生TRPG 覚醒編』が出た頃だった。アトラスが全面協力してくれて、100レベルのルシファーまでデータを載せるという頭の悪いゲームだった(笑)。その発売の翌年の軽井沢コンだったね。50レベルのPCで、100レベルのルシファーを倒すという無茶な企画セッションをやったところ、嬉々としてPCを作ってきた(のが西上さん)」

ホビージャパンが開催していたTRPGコンベンション。多数のゲームデザイナーも参加していた

朱鷺田「その企画に『分かりました、俺達への挑戦ですね!』というやる気満々の参加者が集まった中で、(ルシファーよりも西上さんのPCが)一番強かった」

西上「あの時は、他のプレイヤーさんに申し訳ないことをしました。白状すると、その時点で46セッションぐらい遊んでいたゲームでした」

『真・女神転生TRPG』のルシファー討伐企画を楽し気に振り返る朱鷺田氏(左)、西上氏

朱鷺田「それで『この人、面白いな』と。システム読みは感性と訓練が必要なものだから。その前にも会ってるんだよね」

西上「初めてお会いしたのが、93年のたかまぁ亭コンベンションでした。既存のゲームのカードの表に、(『深淵』の)運命カードの内容を張った最初のテストバージョンがお披露目された時ですね。ひどい運命を付けられたことだけは覚えています」

郵便を通じて全国のプレイヤーが参加するゲーム、プレイバイメール(PBM)のユーザーの集いから生まれた有名コンベンション。

朱鷺田「基本的にひどい運命しか付かないゲームだからね(笑)。その後、『ブルーローズ』から手伝いを始めて、『上海退魔行』ではシステム回りに関わり、ジャイブの『女神転生』シリーズは完全に2人で作る体制になった。僕自身はワールドやイメージ優先で(制作するので)、彼にシステム面の運用をお願いしている。今でもルールパートで悩むと相談するのは彼。
とはいえ彼も数字だけの人じゃない。ノベライズ企画やリプレイも書いてもらった。ヤマザキコレさんの漫画『魔法使いの嫁』公式副読本では、超濃い論考を上げてきたり」

朱鷺田祐介/スザク・ゲームズによるトレジャーハンター物のTRPG。超古代文明のオーパーツを悪用されないように、様々な陰謀に立ち向かう

西上「雑誌連載の時から、他とオーラが違う漫画が載ったなと思って追いかけていたんですよ。そしたら朱鷺田先生が『魔法使いの嫁』の仕事してるよって言うので『ちょっと待ってください!』となりましたね(笑)」

■トークショーを20分独占した男

朱鷺田「次は、岡和田さんなんだけど、愕然としたのが世代。僕がデビューする前に生まれてて良かったよ、30代とはなんとなく覚えていた」

岡和田「『Role&Roll Vol.30』でデビューした年(2007年)の、TRPG日本上陸25周年記念祝賀会じゃないかな」

TRPGが日本に上陸して25周年を祝おうと、ユーザー主導で開催された宿泊型コンベンション。現在も「TRPG文華祭」として開催は続いている。

岡和田「ただ、その前から朱鷺田先生の読者でした。一番最初は『ルナ・ヴァルガーRPG』

当初は角川文庫、後にスニーカー文庫で出版されたファンタジー小説『魔獣戦士ルナ・ヴァルガー』をTRPG化した作品。

参加者の一人が持ってきた、雑誌付録の『ルナ・ヴァルガーRPG』リプレイに何とも言えない顔をする朱鷺田氏。ちなみに長髪の朱鷺田氏という若き日の姿も写真で確認できる

朱鷺田「それは山北(篤)さんのゲームだけどね(笑)。作家を集めたリプレイを録るんだが、流石に1人ぐらい経験者がということで。僕が31とかかな」

岡和田「メシタス・ランタンというキャラクターを担当したのが朱鷺田さん。能力値は知力以外は最低値。目を合わせて、息を止めている間だけ相手を石化するという魔法しか使えない」

岡和田氏は、さらに、朱鷺田氏がTRPGのレビューをまとめている『RPGオールカタログ95』をはじめ、『RPG用誤辞典』『粋なゲーマー養成講座』など関連作品に立て続けに触れ、その存在を意識したと言います。

岡和田「それで、出会いの話はあんまり覚えてないんですよね」

朱鷺田「僕が覚えているのは、TRPG文華祭の挨拶で君が果てしなく話しかけてきて、みんなが止めたことだよ」

岡和田「イベントのトークショーだったんですよね。1人で20分ぐらい話し掛けて、『もうやめろ』となった(笑)」

トークショーを独占したのは朱鷺田ファンゆえ? やんちゃな出会いに会場からも笑いが起きた(写真左が岡和田氏)

朱鷺田「(岡和田さんは)TRPGとSFの両方に詳しい。エクリプス・フェイズは、デザイナーのロブ・ボイルからシャドウランを翻訳したんだからと逆指名で翻訳を依頼されたが、シャドウランも考えると若い人に(任せたかった)。彼はSF評論家として日本SF評論賞を取って、日本SF作家クラブにも入っている。僕の高校生時代の同級生が同じ年に賞を取っていた関係で、僕もパーティに参加して会っていたので、そういえばSFにもTRPGにも詳しい人がいたな、と」

岡和田「ありがとうございます。それからエクリプス・フェイズの連載を『Role&Roll』で始めて、もう100号近く続いていますね」

■意外!? 実は英文科に落ちていた朱鷺田祐介

朱鷺田「最近は翻訳者的な立場になっているんだけど、実は(大学の)英文科は全て落ちているんだよね」

岡和田「『マジック・トゥ・ザ・ギャザリング』は最初、朱鷺田さんの翻訳ですよね」

朱鷺田「不思議なんだよ。マジックの仕事をするまで、英語翻訳をするとは思ってもいなかった。ただ、もともと海外SFを読んでいて、翻訳者にはなりたかったんだよ。それで英文科を受けたが全部落ちたので、大学は国文科なんだよ。ただ、翻訳者で英文科出ていない人はけっこう多かったりするんだよね」

西上「僕は高校出てませんからね(笑)」

朱鷺田「翻訳は慣れだね。もちろん、ある一定ランク以上には知識が必要。問題は、慣れと勢いで翻訳をすると、通常の翻訳者より急勾配の坂に直面する羽目になる。(例えば)シェイクスピアと聖書は何度も出てくるので、この知識がないと地獄を見る。さらにエクリプス・フェイズとシャドウランは、これにオカルトとSFの知識が必要になるからひどい。岡和田さんがエクリプス・フェイズの翻訳しているときに『変な単語ですね』って聞いてきたこと、あったよね」

岡和田「オズマ計画──ユーフォロジスト(UFO研究家)が使う単語ですよね。そういうのが説明抜きで、いっぱい出てくるんですよ」

朱鷺田「私の場合、先程あげた高校の同窓生が、UFO研究家なので、ピンと来て裏を取ることになったんだ」

電波により地球外文明の存在を確かめようとした米国の実験。証拠となる電波は観測できなかったが、これを政府が情報を隠蔽しているからと見る陰謀史観もある

西上「シャドウランの翻訳でもきつかったのは、古典ロックのフレーズがちょくちょく出てくることでしたね。英文法が崩れている箇所があれば、それは出典があり、出典元が崩れているからだ、と当たりは付くんですが」

朱鷺田「奴らは魂にロックが刻まれているんで。なので(翻訳に求められる知識が)果てしない」

岡和田「後は英語圏の人、本当にスタートレックが大好きですよね。エクリプス・フェイズの翻訳でも出てきました」

朱鷺田「スターウォーズとスタートレックも基礎知識だね。シャドウランの戦闘サプリメントでも、格闘技で敵を強制的に移動させる技の説明で、スターウォーズの名前は出さずに、あるシーンを再現できるみたいなことが書かれていたよ。(こうした事情があるのでゲームの)翻訳業界は仕事が沢山あるわけじゃないが、人手が足りていない」

岡和田「ゲームが分かっていないとピントがずれますよね」

西上「“cast a spell”を『呪文を投げる』と訳されては困ってしまいますからね。(そういうゲーム的な専門用語は)英語で1年ぐらいキャンペーンすると、だいたい分かりますが」

この西上氏の発言には、会場のみならず朱鷺田氏からも驚きの声が上がっていました。恐るべし、西上柾。

朱鷺田「SF小説『三体』を訳した大森望さんは大学時代から知る英語の達人だが、初期のマジックの大会で、カードの意味を聞かれたことがある。お前が翻訳しろよと思ったが、カードを見たら分かりにくい内容で納得したんだけど」

岡和田「限りなく直訳しないとルールに齟齬を来す場合もありますね。ダンジョンズ&ドラゴンズ(第4版)の翻訳では、フレーバーは小説的な凝った訳文にした反面、ルールについては訳語のブレを作らず原文のニュアンスを正確に訳すことを心がけました。デザイナーが想定したルール解釈はこうかとあれこれ時間をかけて考えていました」

■気になる、絶版を含む新・旧の朱鷺田作品の今後は?

その他に気になる話題と言えば、新作はもちろん、今では手に入りづらい絶版ゲームの再販の可能性です。会場からの質問に、朱鷺田氏が赤裸々に答えました。

『深夜三流俗悪映画の襲来!!!(レレレ)』『上海退魔行』は制作会社や出版社の都合から、再版は難しいとのこと。朱鷺田氏は、「レレレのB級映画を撮るというシチュエーションをやる方法はいくらでもある。最近はテーマ別にゲームを作って、再現率を高めるアプローチも増えているしね。上海は好きなワールドなのでいつか何とかしたいとは思う」と胸の内を明かしました。

『パラダイスフリート』は富士見書房から電子書籍のみで販売中。サプリメントは、残念ながらDTPデータが残っていないものの「復刊ドットコム」に声が集まれば可能性もあるとか。復刊を望む方は動いてみても良いかもしれません。

続いて、現在動いている作品について、『エクリプス・フェイズ』は太陽を中心としたエリアを取り上げたサプリメント『サンワード』の翻訳が進んでいるとのこと。岡和田氏は「ほぼ終わっていて年内から年明けには(翻訳が終わる)」と見通しを語りました。

また、朱鷺田作品ではありませんが、同じく岡和田氏の関わった作品で、『トンネルズ&トロールズ完全版』の新作シナリオ集&ソロアドベンチャー『コッロールの恐怖+猫のいる間に』(岡和田晃、杉本=ヨハネ訳、グループSNE)も2020年2月上旬に出るとのこと。

『シャドウラン』では、2019年9月に発売されたシナリオ集『Sprawl Wilds』に続き、アメリカ大陸を股に掛けて暴れるシナリオ集『Firing Line』の翻訳が進んでいました(当時は12月中旬の発売が予定されていましたが、これは2020年1月31日に変更)。その内容はと言えば。

朱鷺田「1本目は、シアトルの沖合にアトランティスのような謎の島が浮上するシナリオ。シャドウランは、サイバーパンク&ファンタジーRPGなのでね。次いでアレス重工の本社があるマンハッタンで大騒ぎする。セキュリティが高い地域で武器を持ち込むのも難しいため、(普段との違いに)ドキドキするでしょう。さらに南米にも飛ばされる。コロンビアの中でも治安の悪いスラムで始まる心温まる(?)ストーリーを楽しんでほしい」

さらに、魔法サプリメントの『Street Grimoire』、武器と格闘技のサプリメント『Run & Gun』をそれぞれ西上氏、朱鷺田氏が担当しているそうです。

ただ、シャドウランといえば気になるのは、米国で出た第6版に対する日本でのアクションです。朱鷺田氏は「日本では去年出たばかりでもあるので、しばらく5版をサポートしていく」と、現状では6版翻訳の予定はないことを明かしました。

そして、会場の誰もが気になっただろう作品が『深淵 第3版』です。この日にも試作版が先行して体験できましたが、参加者の評判も高く、いつ発売されるのか気になるところ。

朱鷺田「深淵の話は胃が痛い……。1997年に初版が出て、2008年に2版が出た。第3版は新紀元社さんから出す方向で調整を進めている。もともと深淵は僕がデビュー前から遊んできたワールドが下敷きになっている。その当時は『ルーンクエスト』で遊んでいた。それを企業に持ち込む段階で、オリジナルのシステムに。僕にとってはやりたいことを全部やれる楽なゲーム。僕の分身みたいなところがある」

伝説はここから始まった。左が『深淵』の原点となった名作TRPG『ルーンクエスト』、右は『深淵』初版のボックス

ただ、今回の第3版に当たって悩んだのが、編集部からの「TRPG初心者にも遊べるようにしてほしい」というオーダーだったと言います。そこで、初心者向けにルールをコンパクトにまとめた入門用ルール「L」と、従来の遊び方を楽しめるルール「D」という2段式のシステムになるとのこと。

朱鷺田「基本的にシステムは変わらないが、ライトにする上でデータを調整した。誰もがやる夢歩き、身分は新しい能力値にした。なので、貴族はみんな貧弱になるね(笑)。L版はほぼ固まった。D版は、旧版の王道テンプレートをコンバートし、初期サプリに掲載する分は用意した。後は、ルールとデータを補いながら、2020年に出せるように頑張りたい」

『深淵』ルールブックを手に展望が語られた。朱鷺田祐介の“やりたいこと”はまだまだ尽きる気配を見せない

最後にも重ねて「少なくとも深淵を出してからじゃないと死ねない」と強い意気込みを語った朱鷺田氏。西上氏、岡和田氏と共に、今後の活動への期待感が高まるトークショーとなりました。


ちなみに、主催の幻界堂では、2019年末に発売されたばかりの『異世界転生RPG サンサーラバラッド』(著:千葉直貴氏)オンリーコンベンションも2月23日(日)に東京都・秋葉原で開催予定で、今まさに参加者を募集中とのこと。

スタッフGMがデザイナー・千葉氏の講習を受け、テストプレイを行った上でコンベンションを開催するという、クォリティに力を入れたコンベンションスタイルに加え、発売間もない作品だけに期待度も高まります。「面白いセッションに参加したい」という方、詳細はこちら(リンク先:同企画twipla)からどうぞ!

今回のイベントでは、幻界堂が『エクリプス・フェイズ』のオンリーコン、またプレイヤーが参加費の一部からGMを応援できる形のコンベンション「TRPGギルド」を企画していることも明かされました。興味がある方は、ぜひ同サークルのtwitterをチェックしてみては?


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