JGC(ジャパンゲームコンベンション)では数々の先行販売も魅力の一つ。中でも多くの参加者が買い求めた作品が『ブレイド・オブ・アルカナ リインカーネーション』(著:鈴吹太郎/F.E.A.R.)でした。“本格的幻想英雄譚”と銘打たれた同作は、神の使徒の力の欠片である“聖痕”を巡る戦いを描くファンタジーTRPGで、今回の版上げは2006年以来の3度目。第四版に当たる『リインカーネーション』は、時代の変更やルールの見直しなど大胆なアレンジが加えられています。JGCでのトークショー、さらにデザイナーの鈴吹太郎先生から直接伺ったお話も含めて、ご報告します!
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『リインカーネーション』は新旧ファンに嬉しい“原点回帰”

ブレカナ表紙

田口順子先生の幻想的な表紙絵も印象的な『ブレイド・オブ・アルカナ リインカーネーション』

JGCで先行発売された『ブレイド・オブ・アルカナ リインカーネーション』はルールをより遊びやすくシンプルかつブラッシュアップし、代名詞と言える“奇跡”(使徒の力の欠片“聖痕”を宿す者が振るえる超常的な力。“聖痕”を持たないNPCを判定なしに従わせたり、死者を蘇らせたり、神話のような力を発揮する)も一部変更するなど、大胆な版上げになっています。

何より旧版からのファンが驚いたであろう変更が、時代の設定変更でしょう。『リインカーネーション』の舞台は、旧版より約百年後の1166年。ハイデルランド地方の平和に尽力し続けたヒルデガルド王女をはじめ、NPCの多くは過去のものとなりました。ブレカナは1999年の初版以来、ゲーム内世界で重厚な歴史を重ねてきた歴史物とも言えます。その設定の豊富さは、魅力であるのと同時に、新たに始めようとするTRPGファンにはやや重く感じる部分だったかもしれません。

今回のルール・舞台の変更でぐっと遊び始めやすくなったと感じる『リインカーネーション』ですが、この変更の根本には「旧版からのファンを大切にしたい」という理由があったと鈴吹太郎先生は言います。

「ドラゴンクエストの生みの親である堀井雄二さんとお会いした際に、『TRPGって接触感染だよね』と表現されたことがあります。まさにその通りで、作品を愛してくれている人を起点として、ファンが広がっていくのがTRPGです。だから、単に新規で遊んでくれる人を重視したいからといって、過去をスパンと切りたくはなかったんです」

検討に検討を重ねたところ、ブレイクスルーは開発チームの久保田悠羅先生から飛び出しました。「百年後にしたら、どうでしょう?」

「旧版のハイデルランド地方はヒルデガルド王女によって統一され、平和を勝ち取りました。その直後に、また戦乱が起きたのではシナリオを遊んで王国を救った皆さんの努力がゼロになってしまう。王国は平和になった。しかし、百年……国が3代続くと暗愚な王も出てくるよね?(笑)」

こうして生まれた百年後という設定は、作れるPCの幅も広げています。それがタイトルにもあるリインカーネーション──すなわち、“転生”です。ブレカナ3rdで遊んだPCが転生したものとして登場させられるよう、輪廻転生ルールが用意されています。また、3rdを遊んでいなくても転生PCを遊べるように、転生邂逅表というチャートも整備。ちなみに同時発売のリプレイ『刻まれし者の詩』では転生PCが活躍しており、転生PCの遊び方の参考になる内容になっています。

フルキフェル

ブレカナの象徴でもある大アルカナもイメージを刷新。特に、すべての種族の祖でもある「フルキフェル」のイラストはエルフになり、ガラッと印象が変わった。美しい…

もう一つ、気になるところがルールの変更点の理由です。

「もともとブレカナは手順が多いゲームです。シーンで、キャラが登場し、演出して、判定するという一連の流れでとどまらない。(PC作成やシーン演出にも使われる)アルカナ、(超常的な力を発揮する)奇跡、(奇跡の使用やシーンの登場などでPCに与えられ、PCの尊厳に影響を与える)楔と、多様な要素が盛り込まれています。ただ、こうしたルールを覚えることが大変とは思っていません。それらは遊んでいけば自然と覚えていく部分です。見直そうと考えたのは、プレイヤーが長考しがちな要素です。ゲーマーの性として、最初から最適解を選ぼうと考え込んでしまうことが多い。これが初めてブレカナに触れる人にとっても『考える要素が多そうだ』と大変に見えてしまう。『リインカーネーション』では、こうした長考要素を可能な限り排除しました」(鈴吹先生)

こうして遊びやすくなった『リインカーネーション』。実際、参加者同士でTRPGを遊べるフリーセッションルームでも複数のセッションが開催されており、「遊んでみたい」と思う人が多かったようです。

続けて、年末にはサプリメントも刊行予定とのこと。サプリではPCに使用できる種族が拡張され、ブレカナならではの河人族(ザルム。人間に変身できる巨大な鮭のような種族)、翼人族(オオカミワシ。植物、獣、鳥など複数の生物の特徴を合わせ持つ種族)などで遊べるようになるそうです。

新たな時代を迎えたブレカナが、サプリメント共にどう進化し、どんな歴史を紡いでいくのか、これからも目が離せません。

講義・実践・感想戦の三つ揃った「ゲームマスター講座」も

さらにJGCでは、先行発売しばかりの『リインカーネーション』を題材に、「ゲームマスター講座」も開かれました。

講座は、デザイナーである鈴吹先生自らが担当し、最新ルールのテクニックやノウハウを伝授。一日寝かせた翌日には、受講者に実際に一般参加者相手にGMをしてもらい、その後にもアフターミーティングという感想戦を設けた、2日がかりの濃密な企画でした。

有料イベントのため伝授されたテクニックは未公開ですが、受講後の参加者に聞いたところ「システムごとにGMのコツは変わるので、こうした機会は嬉しい。ブレカナでGMをする自信がついた」「他のシステムにも流用できるものもあり、悩んでいた部分が解消された」と実践的な内容だったようです。

とはいえ、発売されたばかりのルールに加え、公式イベントとして一般参加者相手のGMを担当することはかなり高いハードルです。そのサポートして、セッションスペースには鈴吹先生、遠藤卓司先生の二人が待機して、定期的に各テーブルを巡回するという手厚い構成になっていました。

熱気のこもった「アフターミーティング」会場。鈴吹先生の豊富なGM経験が惜しげなく明かされた

熱気のこもった「アフターミーティング」会場。鈴吹先生の豊富なGM経験が惜しげなく明かされた

こうしたサポートもあってセッションは、公式セッション卓にも劣らない和気あいあいとした雰囲気で盛り上がっていました。それを裏付けるように、アフターミーティング(こちらは受講者以外の参加も可能)では、GM同士が成果を語り合うだけでなく、GM・PL双方からの気づきや疑問を率直にぶつけあう場に。「ブレカナ自体初めて触れたんですが、上手くやりきれました」「キャラの個性を上手く引き出せた」と成果を笑顔で報告する声や、「他の人が担当しているシーン中に何度も質問してくれるプレイヤーの対処はどうすれば?」と新たな疑問をぶつける声などが活発に飛び交い、鈴吹先生も過去の実例を交えながら丁寧に回答していました。

終わり際に「今回のシナリオで(JGC会場の)フリーセッションを立てていいですか」と確認する人もいるなど、手応えと自信を持った参加者が多かったようです。

JGCでは、この他にも鈴吹先生による『トーキョーN◎VA』、冒険企画局の河嶋陶一朗先生による『サイコロ・フィクション インセイン』のGM講座が開かれ、いずれも盛況でした。当然ですが、TRPGはさまざまなシチュエーションがありえるので、悩みや課題を感じるGMも多いはず。それらを解消できる講座は悩めるGMの救いになるでしょう。来年も開催を期待したいですね!


なお、忘れてはならない発売日は『ブレイド・オブ・アルカナ リインカーネーション』、同リプレイ『刻まれし者の詩』ともに9月10日! 刻まれし者たちよ、書店へ向かえ!

Amazon.co.jp: ブレイド・オブ・アルカナ リインカーネイション (ログインテーブルトークRPGシリーズ): 鈴吹太郎, F.E.A.R.: 本
Amazon.co.jp: ブレイド・オブ・アルカナ リインカーネイション リプレイ 刻まれし者の詩 (ログインテーブルトークRPGシリーズ): 田中 信二, 鈴吹 太郎, F.E.A.R., 田口 順子: 本


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