ライトノベルの雄、富士見ファンタジア文庫のウェブサイト「富士見ファンタジアBeyond」。ここに、多くのTRPGプレイヤーになじみ深い“冒険者の酒場”の雰囲気を見事に表現した物語が連載されています。それが『ここは、冒険者の酒場』。JGCではこの単行本化を記念して、作者の藤浪智之先生や、イラストの中島鯛先生、佐々木亮先生らによるトークショーが開催されました。裏話や未公開のイラスト、劇中のような語らいが飛び交い、それこそ酒場のようにわいわいと盛り上がったんです!
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ついに発売となった『ここは、冒険者の酒場』単行本。ウエブ連載をより読みやすく改稿した他、中島鯛・佐々木亮の両先生のイラストや、ファンタジー用語解説など、内容はさらに充実した

ついに発売となった『ここは、冒険者の酒場』単行本。ウェブ連載をより読みやすく改稿した他、中島鯛・佐々木亮の両先生のイラストや、ファンタジー用語解説など、内容はさらに充実した

『ここは、冒険者の酒場(ここさか)』は、冒険者が集う酒場〈竜の洞窟〉亭を舞台に、冒険者たちが自らの冒険譚と、彼らが直面した困難をどう解決したか冒険問答(クイズ)を交わす、会話劇というべき物語です。

誰かが語り出した過去の話が困難にぶつかったところで、個性的な冒険者たちは、それぞれの解決策を口にします。騎士なら騎士らしく真っすぐに、盗賊なら盗賊らしく狡猾に、妖精はその純朴さで以て「俺ならこうする」「私ならこうやっただろう」と。彼らのやり方は全て正解と言ってもいいでしょう。TRPGではよくあることですが、GMの想定が全ての答えではありません。PLのアイデアが素晴らしければ、そちらが採用されることもしばしば。劇中の登場人物、アカヒゲの言葉を真似るなら、「“あるじ(GM)”が気に入って認めるかもしれんな」となるでしょうか。

そんな、独特の楽しさがある『ここさか』が8月20日に単行本として発売されました。ウェブ版を物語としてより読みやすく改稿した他、中島鯛先生による美しいイラストや佐々木亮先生によるかわいらしいイラストが物語を盛り上げています。さらに書き下ろしやファンタジー用語の解説も掲載され、藤浪先生ファンはもちろん、TRPGファンならどこから読んでも魅力的な冒険に引き込まれるでしょう。

当初の企画はまるで冒険者の酒場と異なる物語だった

「乾杯!」から始まったトークショー

JGCでは、その単行本化を記念してトークショーが開催されました。参加者に飲み物が配られて「乾杯」で始まるという、『ここさか』らしい開幕に。

酒場のマスター役になぞらえた藤浪先生と、KADOKAWAの編集者・小木曽正泰氏の二人の進行で、まずは舞台裏として、ウェブ連載企画が立ちあがった経緯を振り返ることに。実は、『ここさか』の肝と言える「純粋な小説ではなく、よりゲーム的な」要素は、当初からの企画でした。

「たとえば複数の平行世界から未来を選べるSF物。他には、文芸部を舞台として登場人物の小説が読める、という案もありました。文芸部の誰を選ぶかによって、物語がSFっぽくなったり、ミステリっぽくなったり変化するわけです。でも、実際そんな企画は、複数作家でないと無理ではないか、と(笑)」(藤浪先生)

この企画検討の中で、最終的に持ち上がった案が、現在の『ここさか』のような冒険者の酒場を舞台とした物語。このジャンルというと、20年以上前からTPRGを遊んでいる人なら同じ富士見書房から刊行された『ファンタジーRPGクイズ』シリーズを思い出すかもしれません。同シリーズは、冒険者の宿〈五竜亭〉を舞台に、新米冒険者である読者が、他の冒険者から自分ならどう動くか、質問を出題されるというもの。今も多くのTRPG作品を刊行し続ける冒険企画局が手掛け、その執筆者の一人として藤浪先生も参加していました。

編集部としても、五竜亭は意識していました。あの作品は源流(オリジン)というべきものであって、異世界の勇者たちが交流する『勇者互助組合交流型掲示板』(著:おけむら先生)や、ファンタジー世界の飲食店を舞台とした『異世界居酒屋「のぶ」』(著:蝉川夏哉先生)など今のライトノベル作品にも息づいていると思います。そこで五竜亭を意識しながら、改めて新しい形の作品を出せないかと編集部内で考えたところ、やはりお願いするなら『藤浪先生に』と決まりました」(小木曽氏)

「執筆に当たっては五竜亭に対して悪い意味で真似にならないよう、かなり気を付けました。書き上げた第一話は、自分としても編集部としても印象の違う作品になったと思っていたんです。五竜亭は一問一答形式なのに対し、ここさかはより会話を掘り下げる方向性で、キャラクターも現在のRPGにあわせて考えなおしたつもりです。しかし、(ウェブで連載を始めると)読者から『五竜亭っぽい!』という声が予想よりもずっと多く上がって(笑)。驚きましたが、やっぱり皆さん、あの雰囲気が好きで共通性を感じてもらったんだろうと嬉しくも思いました」(藤浪先生)

ちなみに、藤浪先生と編集部では、単行本化にあたり『ファンタジーRPGクイズ』を著した冒険企画局の近藤功司先生にも挨拶し、この本が出ることを報告したとのこと。「その熱さに驚きました」と小木曽氏も驚くほど、近藤先生との濃密なファンタジー談義が繰り広げられたとか。その話、聞いてみたかった!

中島先生と佐々木先生がシンクロしたイラスト案

単行本では、中島先生・佐々木先生のお二人が生き生きと描き出した、イラストによる『ここさか』世界も大きな魅力です。

ウェブ連載ではイラストを載せていませんが、執筆当初にキャラクターイラストの原型を佐々木亮先生が制作していたことが明かされました。

「髪形やポーズ、イメージカラーなどでキャラクターを描き分けたものを作りました。それに、身長対比図もあると、キャラクターの目線を想像しやすくなるんです」(佐々木先生)

この原型イラスト自体はあくまで文章執筆のイメージ用ということで、中島先生には見せないで制作に取り掛かってもらったにもかかわらず、仕上がってきたイラストは佐々木先生案にそっくり。編集の小木曽氏は「お二人のイメージがシンクロしていた」と驚かされたそうです。

「(小説で)キャラごとの描き分けが分かりやすく、描きやすかったんです。SDキャラクターにしていただけると聞いたので、背中を考えるのも楽しかった」(中島先生)

こうして完成した中島先生のイラストは、藤浪先生も納得の出来に。特に女騎士シルヴィアのイラストがお気に入りのようで、「見た瞬間、『シルヴィアが来た!』と思いました」とファーストコンタクトを振り返りました。

また、佐々木先生は、中島先生のイラスト案が正面図だけでなく横と背後を加えた三面図だったことに触れ、「ここまで描いてくれる方は少ないんです。おかげでSDイラストも描きやすくなりました」と語りました。

正面絵だけでなく、背面や横から見た姿、道具類などが描かれた中島鯛先生のイラスト。この詳細なイラスト設定のおかげで「SDキャラを描くのに大変助かった」と佐々木亮先生も絶賛していた

佐々木亮先生による、かわいらしいSDキャラたち。今にも動き出しそうだ

会場では『ここさか』さながらの冒険問答も

『ここさか』と言えば外せないのが、冒険譚に対して、その解決策を語り合う「冒険問答(クイズ)」です。

単行本を一部店舗で購入すると付いてくる販売特典も、この冒険問答にまつわるものです。それが、「酒場のTopiQカード」。表側には出題者となる冒険者が出会った困難や試練に基づく質問が、裏には複数の冒険者たちの回答が書かれており、各キャラクターらしい回答を楽しんでもよし、どれか一つのキャラクターの回答を正解として、クイズのように出題してもよいという仕掛けになっています。

この「酒場のTopiQカード」の問題への「あなたの答え」を、事前にウェブで読者から募集し、会場でもゲストや参加者の皆さんとの参加企画が行われました。まずは、魔王少女ネブラ(魔王を自称する謎の少女)による「迷宮で、モンスターに追われている冒険者の行く手に扉が二つ。さて、どうする?」という質問。これだけだと回答に悩んでしまうところですが、ネブラが口を滑らせて「実は扉の先は2つとも罠」であることも分かります。

先頭を切って回答した佐々木先生は「そのまま扉に突っ込みます。すごく頑丈な鎧を着てるので、どっちを選んでも大丈夫なんです」とダイナミックな回答をして、会場を笑わせました。

対して、中島先生は「ドアを開けるなり自分は扉の陰に隠れて、モンスターを罠の部屋に突っ込ませようとします」と知性派な回答。

このように『ここさか』の回答には、かなり自由度が設けられています。質問に書かれている以上の設定や環境は、回答者が自由に定めていいため、アイデア次第でいろいろな回答があり得るのが奥深いところ(だから、佐々木先生の回答もアリなんです! GMが認めれば)。

同様に、会場の参加者にも、『ここさか』らしく登場人物からの問題が出題されました。酸いも甘いも噛み分けた傭兵ホークウッドが出した質問は、「とある迷宮でボスを出し抜いて財宝を奪取して帰還しようとしたところ、入り口付近で新たな敵が近づいてきていることに気が付いたという状況で、どう切り抜けたか?」というもの。

会場から飛び出た回答の一つは、「財宝の中から一番価値のあるものを取り出して、他は迷宮に隠しておく。外から来た敵には高価な財宝を渡す代わりに見逃すように交渉し、後から財宝を取りに戻る」。傭兵らしい強かさを感じる答えで、「ほぉ」と会場から唸る声も聞こえました。

また、読者から投稿された回答では「実は新手の敵も、自分たちと同じ迷宮の財宝を狙ってやってきたもの。新手に財宝を渡して、ボスとの同士討ちを狙い、その隙に逃げ出す」というものもありました(ちなみに、投稿者である冒険者名「ケットシーのマゥ」さんはトークショーにも参加してました。かなりの『ここさか』ファンですね!)

この他にも「絵の中の虎が夜な夜な暴れて、王様が困っている」や「新人の時に、村を救うために自分より格上の魔法使いと勝負しなければならない」といったTopiQカードからの質問、また読者から投稿してもらった質問も出題され、〈竜の洞窟〉亭さながらに個性的な回答が飛び交いました。

スクリーンに映し出された、読者からの問題。「水神様の祠まで女性を送り届けてほしい」という依頼を受けたものの、村人から話を聞くと、女性は村長に厭われて水神の生け贄に捧げられることになったらしい。あなたならどうする?

藤浪先生は「実は、あの酒場には、『ソード・ワールドRPG』や『アリアンロッドRPG』、『D&D』などの別々のTRPGシステムの冒険者が集まっているという隠れた設定があります。だから、それぞれのシステムに沿った色々な回答があっていいんです」と明かしました。そうした設定に気付いているのか、読者からの募集した回答には『パールシード』や『Paranoia』世界の住人と思われる内容もあったそうです。

こうして2時間のトークショーは和気あいあいとした雰囲気のまま閉幕を迎えました。ファンの期待も高まる『ここは、冒険者の酒場』ウェブ版は単行本1巻でまとめられた第一部を終え、第二部に移っています。この新ステージでは、出題編となる前編と、読者に回答を募集してから執筆される後編という、読者参加要素を強めた二部構成に。

小説というジャンルの枠をはみ出して、読者を巻き込んだ展開を見せていくという『ここさか』。今後の展開がますます楽しみです! ウェブ版をご覧になりたい方はこちらから!

Amazon.co.jp: ここは、冒険者の酒場 (FUJIMI SHOBO NOVELS): 藤浪 智之, 中島 鯛: 本


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