パーティー個別のシナリオが展開するぜいたくなライブRPG
晩夏を盛り上げた「TRPGフェス」では、TRPG以外にも魅力的なイベントが多数開催されました。その1つがJGC時代から続いてきたライブRPGです。今回は、1988年に発売されたカードゲーム『モンスターメーカー』の30周年を記念する「モンスターメーカーライブRPG」として全2回開催され、毎回100人近い参加者が詰めかけました。
この「ライブRPG」というゲーム、そもそも初耳という方もいるかもしれません。基本的に多人数のプレイヤーがキャラクターに扮し、会場に配置された複数のポイントを歩き回りながら、さまざまなミッションをクリアしていくという体験型のRPGなのです。TRPGならセッション卓の数人でゲームを共有するところですが、ライブRPGではすべての参加者との連携も可能です。ホテル大野屋という広い会場内を巡りながら、方々で情報共有や連携をする姿も見られたのもライブRPGらしいところ。実際にユーザーが集まるオフラインイベントならではのゲームとも言えるでしょう。
スタート地点となったのは、ヒューマン(モンスターメーカーにおける人間種族)が拠点とするメルキア王国。モンスターメーカーをはじめ多数のアナログゲームを手掛る鈴木銀一郎先生が扮する大魔法使い、そして漫画家をはじめ多彩な活躍をする是空とおる先生が扮する王様の激励を受けて、いざ冒険の始まりです。ウルフレンド大陸各地では難事件が発生しており、その救い手となる冒険者が求められていました。
プレイヤーが演じるキャラクターは、各地の救世主となりうる知恵と勇気に富んだ人物ばかり。ゲーム的には、「戦士」「盗賊」「魔法使い」「貴族」の4種類の職業から1つを選んで、名前を付けるだけでキャラクターの完成となります。
興味深かったのが各職業の能力です。今回のライブRPGでは能力値やレベルといった数値的データが一切ありません。代わりに職業ごとの「アクションスキル」が、それぞれの個性を生むという仕組みです。例えば戦士なら「無双」というスキルでロールプレイをすれば、多数のモンスターに襲われても難なく撃退できます。貴族なら「高貴なオーラ」で交渉を有利に進めたり、モンスターを怯ませたりすることもできるでしょう。これらの特徴をロールプレイの理由付けとして、ミッションの解決策に活用できるわけです。
こうして多数の参加者がウルフレンド大陸の各地に散っていきました。ただ、初期に参加者に与えられるミッションに同じものはありません。それぞれが別のシナリオを同時並行的に進めていきます。あるパーティーは行方不明の人物を探し、あるパーティーは伝説の剣を探し……多人数参加型ながら別々の物語を体験できるため、パーティー同士の情報共有も楽しそうでした。
もちろん、ブース1つで解決するミッションばかりではないので、参加者はブース間を渡り歩く必要があります。大野屋の3フロアにまたがって設置されたブースは、実に14カ所。各ブースにはGMの役割を果たすブースGMが居て、それぞれキャラクターが抱えるミッションや場所ごとのイベントを進行したり、参加者が提示するロールプレイの成否を判断したりしてくれます。
こうして事件が解決されていくと、徐々にその背後に潜んでいた世界の危機が見えてきました。ここで複数のパーティーが連携して取り組む大事件「エクストラ・ミッション」に、ゲームは切り替わります。14カ所あったブースは6カ所に集約され、冒険者が団結して難事件に挑むことに。ある場所ではダークエルフの大規模な陰謀が明らかになり、ある場所ではオークとの戦争が勃発するなど、パーティー単体では解決が困難なミッションに対し、参加者が真剣に相談し合う姿が印象的でした。
さらに冒険者たちには、全員が協力して取り組む「最終ミッション」という難関も残されていたのですが、見事に成功! ウルフレンド大陸を救うという偉業を成し遂げた冒険者たち皆が歴史に名を刻んだことでしょう。
ライブRPGは「魔法をかける」ゲーム
今回のライブRPGをはじめJGC時代から、鈴木銀一郎先生とタッグを組んで、10年にわたってライブRPGを制作・指揮してきたのが河村有木生先生。このTRPGともLARPとも似て非なるゲームのポイントは「魔法をかける」ことだと言います。
「職業を表すエプロン装備も、そうした魔法の一つです。もともとはTRPGフェスティバル運営事務局の松尾さんが別イベント用に考えていたアイデアでした。『これだ!』と思い、そのアイデアを貸してもらったんです」
このエプロン装備のデザインは、イラストレーターの合鴨ひろゆき先生が手掛けています。それだけでなく、合鴨先生はLARPやWAR→P!にTRPGフェスに先駆けて参加しており、その体験談を聞いたことが河村先生を刺激したと言います。「もともとLARPやWAR→P!の、体を動かす、衣装をまとうという点は注目していて、VR開発に携わる方に相談したこともあります。この両者に共通する魅力は、ユーザー体験の密度でしょう。ライブRPGも密度の高い遊びですが、ユーザーはもう一歩先を望んでいるんじゃないかと考えました」
その検討の中で生まれた挑戦が「数値を使わないこと」。実は、この挑戦は、過去に河村先生が鈴木銀一郎先生と1時間で遊べるTRPGを制作しようとしたときに解決できなかった宿題でした。過去のライブRPGでもレベルや能力値があったのですが、今回はそれらを排除し、「アクションスキル」というロールプレイングのフックしか設定していません。これもLARPやWAR→P!が数字を使っていないことがヒントになりました。
さらに師である鈴木銀一郎先生の言葉も、その決断を後押ししたと言います。「河村くん。プレイヤーの力を信じなさい」と。
こうして形になった、新たなライブRPGの姿。河村先生は「TRPGフェスの第1回が、いつもと同じでよいのかという思いがずっとありました。俺以外がライブRPGを担当するにしても、LARPやWAR→Pに負けない楽しいものを目指してほしいという願いを込めて、高いハードルとなるゲームを提供したかったんです」と振り返ります。
良いものを創ろうと思えばこそ、制作チームの一員である、TRPG『神我狩』のゲームデザイナーである力造先生、イラストレーターの合鴨先生らとしばしば議論を交わしたと言います。そのおかげで「新たなライブRPGを、層の厚いスタッフで支える体制ができました。まだTRPGフェスの次回予定は決まっていませんが、あれば今回参加してくれた方々がまた『魔法にかかりたい』と来年来てくれるように、さらに高いハードルを目指していきますよ」と意気込みを語ってくれました。
初代『モンスターメーカー』のリメイク版が12月に!
さらに、同イベントで開催されたトークショーでは、驚きの発表もありました。カードゲームブームの先駆けとなった初代『モンスターメーカー』のリメイクが発表されたのです。発売は、アークライトゲームズより2017年12月予定。「短時間でさくさく遊べる」などの調整を加えたリメイク版は、メインイラストを平尾リョウ先生(@HiraoRyo)が担当。もちろん九月姫先生のテイストも意識されたイラストになっており、旧作ファンも納得のデザインとなっているようです。
また、九月姫先生の書きおろしによる豪華保存版も18年5月に発売予定とのこと。ライブRPGだけでなく、モンスターメーカーのこれからの展開にも目が離せません!
TRPGの質問・疑問に答えるチャットを開設しています。お気軽にご参加ください。
→TRPG チャット