朱鷺田祐介、というTRPGデザイナーがいます。『シャドウラン5th Edition』や『エクリプスフェイズ』のようなハードSF作品を翻訳する傍ら、ダークファンタジーTRPG『深淵』、『真・女神転生TRPG』シリーズ、『ブルーローズ』のような現代アクションTRPGも。著作でクトゥルフ神話を解説する一方で、『クトゥルフ神話TRPG 比叡山炎上』のように歴史の造詣も深い。そんな朱鷺田氏が翻訳や制作に携わった作品が一堂に会する「朱鷺田祐介オンリーコンベンション」が、サークル幻界堂の主催で2019年11月3日に開催されました(※トークショーの詳細を紹介する後編記事はこちら)。
ゲストには、朱鷺田氏はもちろん、西上柾氏、岡和田晃氏と朱鷺田チームが揃いぶみ。
そして会場を埋めたのは、幅広い著作活動を振り返るような7作品でした。それらを歴史順に紹介するだけで、朱鷺田作品の懐の広さが分かるでしょう。
■根強いファンの存在を感じさせたユーザー卓
まずはファンタジーTRPG『トンネルズ&トロールズ』──というと意外に思うかもしれません。話題がズレるようですが、今日、グループSNEが展開する雑誌『ウォーロックマガジン』が、元々は1980年代に始まった雑誌『ウォーロック』に端を発するのは有名な話です。この伝説的TRPG雑誌のスタート間もない1987年に、『トンネルズ&トロールズ』の日本独自企画として動き出したのが「セル・アーネイ」。1枚の地図から読者投稿を募って背景世界を創り出そうという、当時としては珍しい読者参加型企画でした。この編集・執筆に関わっていたのが、若き日の朱鷺田氏なのです。
セッションでは、その有名キャラクターである黒騎士団団長ラムレーの所在を探るべく、囚人だけが集められた“徒刑都市”ラーマールにPCが忍び込むことに。同じ朱鷺田作品である『深淵』の運命カードも交えたことで、予想の付かない展開にGMもプレイヤーも一喜一憂していました。
続いて1994年発売の『パラダイス・フリートRPG』は、宇宙戦争が繰り広げられる遥か未来の銀河系を舞台に、惑星間を飛び回るというコミカルな宇宙冒険TRPG。元々は雑誌『ドラゴンマガジン』の読者参加型企画だったもので、ヨーロッパ風、中華風、日本のサイバーパンク風企業国家(でもギャグ)の三カ国がクロスオーバーする設定があり、コミカルな印象が強いのですが、細かい部分を見ると本格SFの血脈も感じられます。
セッションは、企業国家「しきがみおえど」経理部隊の依頼で、料金の督促を代行することに。ただ、肝心の顧客がいる海洋惑星の周辺は、他の銀河帝国の宇宙船が封鎖しており、しきがみおえど艦隊とも一触即発の状態となっていました。PCは封鎖を潜り抜けた上、惑星上で進む陰謀と対決。バトルも多く、SFらしさをフルに生かした派手な展開が印象的でした。
知る人ぞ知る作品が、朱鷺田氏がプロデュースという少し違った立場で関わっているTRPG『深夜三流俗悪映画の襲来!!!』(翻訳:桂令夫氏、河村克彦氏)です。イット・ケイム・フロム・ザ・レイト・レイト・レイトショウという原題から「レレレ」の略称でも知られる本作は、米国のステラー・ゲームズ(現在は解散)の制作した、B級ホラー映画の俳優になってダメ映画の制作を行うという、メタ視点の強いコミカルなTRPG。GMが映画監督、プレイヤーが俳優を担当するのですが……制作される映画はB級もB級。日本では深夜にテレビ放送されるかどうかという低予算映画なのです。チープなセット、無理のある脚本、演技のできない役者といった具合に無理が山積した状態で、映画をなんとか完成に漕ぎ着けねばなりません。
セッションでは、B級映画の代表ジャンルというべき「サメ映画」を撮ることに。巨大人食いザメとの戦いを演じるはずが、派手な展開を求めるあまりにサメがとんでもない進化を遂げていきます。カードやプレイヤーのアイデアによって変異するサメとのバトルを、プレイヤーが楽しそうに熱演していました。
そして、1870年の魔都上海で新撰組とドラキュラが戦うという架空歴史冒険浪漫TRPG『上海退魔行』も。初見の方は「なんだ、そのカオス!?」と思ったかもしれませんが、これも2003年に発売された朱鷺田作品です。舞台は、19世紀末の上海。ただし、ドラキュラや新撰組だけでなく、シャーロック・ホームズやハインリヒ・シュリーマン、東郷平八郎など、実在・非実在を問わず偉人が集結。PCは彼らと関わることで、歴史のifやあり得ないクロスオーバーを楽しめる仕掛けになっています。
セッションで焦点となったのは、上海にあるサムライ租界で起きた行方不明事件。土方歳三から頼まれて、PCは行方不明になった日本人の少女を探すことに。新撰組隊員、英国財閥の子女ヴィクトリアのお茶会メンバー、飛鴻の拳法仲間など、同作らしい多彩な立場のPCが協力しつつ、上海の街を駆け抜けました。
■注目は朱鷺田氏、岡和田氏、西上氏によるゲスト卓
何より豪華だったのが、朱鷺田氏をはじめ、制作を強力にサポートしてきた西上柾氏、岡和田晃氏が集まったゲスト卓です。
メインゲストである朱鷺田氏がGMをしたのは、発売が待望されるダークファンタジーTRPG『深淵』の“試作”第3版。今まさに調整の最終段階というルールは、『深淵』を特徴づける「運命カード」や、そのカードによって即興的にセッションを展開させる「渦型ルール」はそのままに、ダメージなどの複雑な処理をよりシンプルかつ遊びやすくしたものになっていました。
『女神転生TRPG』から朱鷺田氏の片腕として活躍してきた西上氏は、日本で2018年に発売した『シャドウラン5th Edition』を担当。同じ近未来の地球を舞台としたSFなTRPG。そこはインターネットが進化したマトリックスが地球を覆い、人々が身体を徐々に便利な機械へと置き換えていく一方で、魔法が復活し、架空の存在であるはずのドラゴンやエルフが社会の一員となった世界。サイバーパンクTRPGの名作としてファンが多く、ルールだけでなく、モバイル化・クラウド化が進む現代をベースに世界観もバージョンアップを重ね続けています。
TRPGのみならず、SF評論家としても知られる岡和田氏が担当したのは、同じSF系TRPGでも、2016年に日本で翻訳され、フルカラーの豪華なレイアウトもインパクトを与えたハードSFなTRPG『エクリプス・フェイズ』です。軍事AIの暴走によって地球が壊滅し、人類の生息域が太陽系に広がった近未来を舞台に、今なお残る人類滅亡のリスクに対処するというスケールの大きな作品。人造の身体である義体(モーフ)に精神を移し替えることが可能になっており、セッションのオープニングがPCの死んだ場面から始まることが当たり前という一風変わった物語を体験できるのも魅力です。
■トークショーにプレゼント、懇親会……ファンとの近さを感じさせるイベントに
これらセッションはもちろんですが、オンリーコンとあって参加者の期待が集まったのが、ゲスト陣によるトークショーも。
セッション卓にも並んだ、『トンネルズ&トロールズ』のセル・アーネイ世界をはじめ、朱鷺田氏が手掛けてきたTRPG作品の裏話や制作時の苦労などが振り返られました。その内容は後半記事で、さらに詳しく紹介します(リンク:後編記事)。
トークショー後半では、ゲストや主催の幻界堂からプレゼントが提供され、参加者から歓声が上がりました。今や絶版となり、プレミアが付いている絶版の『真・女神転生TRPG 魔都東京200X』をはじめ、各ゲストの著作、イベントで制作した一品物のレアアイテムなど太っ腹な内容がズラリ。くじで選択順が決まるものの、半数以上の参加者がプレゼントをもらえるとあって、参加者からは悩まし気なため息がこぼれていました。
閉会に当たり、挨拶に立った朱鷺田氏は「僕は皆さんと(近い距離で)やっていくのが好きなので、このまま色々なゲームデザイン、あるいは面白いゲームを紹介してきたいと思っている。少なくとも『深淵』を出してからじゃないと死ねない。やりたいことは、まだまだ沢山あるので」と、さらなる創作への意欲を語りました。
ちなみに、卓数などの限界から涙を飲んだものの、遊ばれたシステム以外の朱鷺田作品を希望するユーザーGMもいたとのこと。ほぼ全作品のGM希望者がいるという事実には、あらためて根強いファンの存在を印象付けられます。『深淵 第3版』『エクリプスフェイズサプリメント サンワード』をはじめ、これからも朱鷺田チームの展開から目が離せません!
ちなみに、主催の幻界堂では、2019年末に発売されたばかりの『異世界転生RPG サンサーラバラッド』(著:千葉直貴氏)オンリーコンベンションも2月23日(日)に東京都・秋葉原で開催予定で、今まさに参加者を募集中とのこと。
スタッフGMがデザイナー・千葉氏の講習を受け、テストプレイを行った上でコンベンションを開催するという、クォリティに力を入れたコンベンションスタイルに加え、発売間もない作品だけに期待度も高まります。「面白いセッションに参加したい」という方、詳細はこちら(リンク先:同企画twipla)からどうぞ!
今回のイベントでは、幻界堂が『エクリプス・フェイズ』のオンリーコン、またプレイヤーが参加費の一部からGMを応援できる形のコンベンション「TRPGギルド」を企画していることも明かされました。興味がある方は、ぜひ同サークルのtwitterをチェックしてみては?
TRPGの質問・疑問に答えるチャットを開設しています。お気軽にご参加ください。
→TRPG チャット