平安幻想夜話『鵺鏡』は、同じシナリオを使ったとしても、千変万化のまったく違った物語を紡ぐことができるTRPGです。ロールプレイが好きな方なら、是非とも一度は遊んでみていただきたい作品です! そんな鵺鏡のオンリーコンベンション『ぬえコン~幕間~』が、2017年7月22日(日)に開催され、平安伝奇物語を愛する24名が集いました。他のシステムでは、ちょっと目にすることのない驚きのコンセプトと内容をレポートしたいと思います。

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1.コンベンションの驚きのコンセプトとは

平安幻想夜話『鵺鏡』(リンク先はこかげ書店商品ページ)

通常のコンベンションならば、GMが思い思いのシナリオを使ってセッションをするでしょう。ですが『ぬえコン~幕間~』では、『全ての卓で同じシナリオをプレイする』という驚きのコンセプトが採用されていました。同じシナリオであっても全く違う物語が展開する、平安幻想夜話『鵺鏡』独特のシステムならではの試みです!

今回選ばれたのは、基本ルールブックに掲載された公式シナリオの一つ、『思ほゆるかな君が影』でした。鵺鏡のアイドルこと清姫が登場する物語です。
セッションの卓分けの段階になって、居並ぶGM陣が渋い男性ばかりであることに気が付きました。
スタッフさん曰く、「清姫をRPする演目ということで、あえてダンディな男性にGMをお願いした」とのこと。なぜに。

2.誰も彼もが清姫に……妄念渦巻くセッションの行方は

そんなGM陣から記者が参加したのは、和風TRPGらしい粋な和服を着こなしたGMの卓でした。PLにも着物姿に眼鏡をはめ込んだ狐面と印象的な装いのPLの方がいて、意気込みは十分。同卓の皆さんもグッと気合が入っていた様子でした。

じゃあ今日はどんなことをしようか、と相談が始まります。「道標」(そのPCがどういう人で、何を目的とするかを示すもの)を選ぶ手順もスムーズに進み、いざ実際にキャラクター作成です。

というところでGMから思わぬ提案がありました。オリジナル分限(他のTRPGにおけるクラスのようなものです。PCの在り方を示します)を採用できるというのです。王将・参謀・天人・商賈の4種類。いずれも古代中国にもふさわしそうな分限です。
(*中華鵺鏡というのも面白いかもしれませんね!)

「PC甲:有守」の選んだ参謀は王佐の才とも言える、王者を支える者の分限。
「PC乙:金色」の選んだ王将は徳をもって人を導く者の分限。
「PC丙:鈴」の選んだ天人は楽しいことを楽しくやろうよ、という浮世離れした仙人のような雰囲気の分限でした。
残るオリジナル分限も魅力的だったのですが、記者は鵺鏡初心者ということで、わかりやすく簡単なPCを作りました。
記者の「PC丁:不毛丸」は、血脈はこそ由緒ある「神」でありながら、生様は「逆賊」、魂魄は「畜生」という誇りの欠片もないただの悪党としました。

いざ、セッションです。愛する安珍を追い求める清姫に今回、安珍だと誤解されて恋慕われたのがPC甲・有守。そのねじれた愛に辟易した有守が清姫を滅するために頼るべく、代々人外の血を取り込んできた一族の棟梁、PC乙・金色が待ち構える館へと向かうところから物語は始まりました。
清姫との因縁は彼らだけではありません。娼館を経営する娼妓にして心優しく一途な少女、PC丙・鈴は清姫を恋い慕っておりました。さらに、鈴に付きまとい、その慕情を煽りつつ、清姫を守ると口先では言い続ける者が、記者演じる不毛丸。

PC同士の対立的な関係に驚いた方もいるかもしれません。鵺鏡はPCとPLを完全に切り離した状態で遊ぶゲームです。PL同士では仲良く和気あいあいとした雰囲気での会話がはずみます。しかしPCたちは、物語の中でヒリヒリとした空気を漂わせていました。

その後、有守と金色は狙い通りに、清姫を滅するための陣を発動します。清姫は有守の裏切りを悟り、怒りから狂乱の大蛇へと変貌します。しかし、その隙を突いて金色は呪毒の塗りこめられた刀を突きさします。その毒は清姫を彼女たらしめる妄執、記憶を消し去るための毒でした。
鈴は苦しむ清姫に駆け寄り、その毒を血と共に吸い取ろうとします。そこを、不毛丸は狙っていました。自分を親友だと信じている鈴を裏切って、大蛇の首を刎ねました。不毛丸は清姫を殺す毒と清姫の力の血を得て、大いなる妖神となる目的を隠していたのです。

これこそ業(他のTRPGにおけるスキルのようなもの)の一つである「大逆」の必須ロールプレイでした。鵺鏡では業を使う際、決められたロールプレイをする必要があります。(ここでは「裏切る」というロールプレイが成立したことで「大逆」が発動し、最終的なセッションの終了時に行われる「門」の通過判定に対しての成功値が上昇しました。このようにPC間では対立しても、セッション自体はよい結果へと向かうことができるのです。鵺鏡ならではの独特な処理と言えます。

清姫は当初の目論見通り、記憶を失ってしまいます。彼女が鈴を見て、「あなたは誰?」と問うた瞬間に、対象に一時的に憑依する業「降神」を使用し、「私は、安珍ですよ」と応えさせる追い打ちもしておきます。彼女は記憶が断片的に残っているのか、ショックのあまり
「みんな、嘘。嘘つきばかり」と呟いて気絶してしまいました。

ここまでが物語の前半です。これだけ濃密なストーリーでも、行ったのは二つの道(場面)だけ。どう見てもクライマックスです。ここまでを読み、結末は清姫の力を奪った不毛丸を倒すことで終幕に向かう──と考える人は多いことでしょう。しかし、この物語の展開は、少し違いました。

前半の最後に、死んだ蛇体からは、もはや力も、記憶もない少女が一人が吐き出されました。清姫の残骸です。彼女は、鈴の元で保護されることになりました。

ここでGMから、日常的場面の演出が提案されました。
不毛丸は鈴の娼館から叩きだされ、ラスボス感のある二つ目の場面のラストと打って変わって素寒貧の根無し草に。
有守は実は自らが本当に安珍の生まれ変わりだというのにそれを否定したことで、己の自己同一性の矛盾に苦しむことに。
金色は一族の願い通りに妖を討ったものの、中途半端な結末から日常に戻ってよいのかと懊悩し。
鈴は清姫だった少女と共につかの間の幸福な日常を味えたものの彼女の記憶の消失に思い悩んでおりました。

こうした日常風景を挟んだことで、物語の方向がまた少し変わりました。
大いなる悪になるはずだった不毛丸はお笑いキャラとなり、逆に有守は懊悩を深め、苦しみ、妄念に取り憑かれ始めました。
GMの提案により、PL達は話し合い、物語をよりドラスティックに表現する方向へと舵を決めたのでした。

そして最後の道。矛盾に堪えきれなくなった有守は鈴たちの娼館に火をつけるという暴挙に出ました。清姫の本性をあぶりだすと金色を炊きつけ、燃え盛る娼館を登っていきます。邪魔をする女中はだんびら一本で切り捨てるという残虐さを発揮する彼に、もはや正気はありません。清姫を殺すという妄念にのみ囚われていました。
金色もまた、正気ではなかったのです。清姫を殺さねば、なんのための一族だったのかわからないという妄念に囚われていました。
鈴は、清姫を愛するという情念に囚われていました。
誰もかれもが妄念に囚われて正気を失う……それは、清姫となんの違いがあるでしょうか。

鈴は清姫を探し、ようやく見つけます。しかしその瞬間、燃え盛る柱が倒れてきました。
誰も助けにこないと誰もが思ったその瞬間。「裏切る」者がいました。その男の名こそ、不毛丸。屑から外道へ、そして素寒貧へと様変わりしていった、娼館のかまどの神の成れの果てです。
どうせ来るはずがない、逃げおおせているだろうという予想を「裏切って」、業「大逆」を使用して現れたのです。
実は、これは「大逆が一演目に一度しか使えない」と誤解していた記者に、道ごとに一度使えるよとアドバイスをくれた鈴のPLさんのアドバイスのおかげでした。
一度ならず何度も裏切った不毛丸に、むしろここでいい奴のフリを最後だけさせることが大きな裏切りになると提案してくれたのです。
これこそ鵺鏡らしさとも言えるでしょう。PCは敵対したり裏切りあったりしても、PL同士は協力して「良い物語」を目指すという目的が一致しているというTRPGなのです。

……ただ、不毛丸の裏切りも有守の凶刃を止めるには至りません。彼は清姫を切り裂き、その命を奪います。それを目にした金色はそれらすべての妄執こそが清姫であると悟り、「清姫を滅する刀」で有守を不毛丸ごと貫きます。それは不毛丸の望みでもありました。
自分も消えなければ、この物語につじつまがあわなくなると思ったこと。この有守という者を生かしておくことはできないことを、わかっていたからこその行動。
「あーあ。最後に抱いて死ぬのが、こんなけったいな野郎とは、ついてねえなぁ、俺もよぉ……」
そう言って不毛丸、そして有守は清姫を追うように果てたのでありました。

なお、鵺鏡はPCの死はほぼPLの任意で決定されます。このPCが生きていない方が物語が美しいと皆で判断したときのみ、PCは死亡します。

鈴はその後火災から金色により救出され、清姫の願いである「生きてくださいまし」という言葉を胸に、娼館の再建を始めました。
金色はあらゆる束縛から解放され、その一族の棟梁として、生き直すことに決めました。
そのうち、恋が花開くこともあるかもしれません。

3.あれ、そんなシナリオだっけ!? の嵐

そんな濃密なセッションは楽しいの一言に尽きました。しかし、他のGMの卓も大変楽しそうでした。というのも最後のGMの皆さんのあいさつで飛び出した単語が、まるで自分たちの卓と違ったからです。その一部を抜き出せば、

「平安京・猫と蛇の怪獣大決戦」
「安珍か清姫は死ぬようにできてるシナリオ」
「思ほゆるかな君の名は。(BGM:前々前世)」
「スタイリッシュ鵺鏡」

「あれ、そんなシナリオだっけ!?」と思ってしまう内容ばかり。ただ、間違いなく楽しいセッションが繰り広げられたのは、GMや参加者の皆さんの顔が見れば伝わってきます。素敵なGMの皆さんの感想には、聞いているだけで想像力がかき立てられました。

4.アフターセッションもコンベンションの楽しさのうち

ちなみに、アフターセッション、つまりは感想戦もセッションの楽しみの一つ。つい名残惜しくて、参加した皆さんが、興奮冷めやらぬ様子で、各卓の出来事を互いに語り合ったり、GMに質問したりしていました。
他ならぬ記者も、同じPC丁を選んだメンバーでPC丁同盟なるチームを結成。同じ道標でも、まるで異なるPC丁たちを互いに演じたか説明し合い、それぞれの狙いを尋ね合うのも興味深い経験になりました。
振り返れば、全体的に笑いながら、しかし真剣な物語を作るという鵺鏡らしい遊び方ができたと思います。それに、同じシナリオを体験するということが、卓だけでなくコンベンション全体での一体感の醸成に拍車をかけていたように感じました。

同じシナリオを使っても時と場合とメンバーが違えば全く違う物語を紡ぐことができる、平安幻想夜話『鵺鏡』! おすすめです!

最後に、このような素晴らしいコンベンションを開催してくださった主催者の方々、鮮やかな手腕で見事な卓の物語を回して下さったGMの方々、ご一緒させていただいたプレイヤーの方々に、心からの感謝を贈らせていただきます。このご恩を返すべく、次はGMをできるよう修行しておきます!

最後に嬉しいお知らせが。「ぬえコン」は次回以降の開催も予定されているようです。この記事で興味を持った方、楽しみに待ちましょう!


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