ボードゲーム人気を追い風に、回を重ねるたびに大きくなるゲームマーケット
──まずは直近の開催の手応えから伺わせてください。ゲームマーケット2014秋、2015大阪はいかがでしたか? 参加者も増え、大変盛り上がったそうですね。
刈谷 「おかげさまで参加者は増加傾向が続いており、ゲームマーケット2014秋(以下、2014秋)が10%増の約7,200人、3月の大阪では25%増の約3,000人といずれも順調に拡大してます。ボードゲーム人口の増加を強く実感しているところです」
──すごい勢いを感じますね。この増加の理由はどこにあるんでしょうか? 一部報道では、東日本大震災を機に電源を必要としないアナログゲームの面白さが広まったという記事もありましたが、そうした影響は実際にあるんでしょうか?
刈谷 「ボードゲーム人口の増加は、個人的にはSNSの存在が大きいように思います。これまでも愛好者が遊び仲間を募るボードゲーム会は開催されてきましたが、人を集め、参加確認するなどのコミュニティを維持する負担が大変で、特に大規模なゲーム会を開く負担はそうとうなものがありました。その部分をSNSが楽にしてくれたことで、ボードゲーム会は格段に開催しやすくなり、参加しやすくなりました。人口増に関しては、東日本大震災の影響は微細だと感じています」
──なるほど。環境が整ったからこその状況なんですね。では、出展側の変化はいかがでしょうか?
刈谷 「出展側の変化ということではありませんが、予測もしなかった人気を博するブースが毎回現れるのが面白いところですね。単に行列ができるだけでなく、カナイセイジさん※、林尚志さん※のようなトップデザイナーも『毎回クオリティの高い作品が出てきて、刺激を受ける』と語っていました。ボードゲームは大手に限らず、在野から次々脚光を浴びるクリエイターが現れるジャンルで、まだまだ黎明期だなと感じています。
これには、制作側を取り巻く環境の変化も大きいですね。ボードゲーム人口の増加で購買層が増えたこともそうですが、世界印刷※のようなボードゲームの印刷サービスが誕生するなど、品質が向上しつつ、製作費が抑えられる傾向に進んでいます。個人サークルがゲームを2,000個作り、実際に売り切って増産をかけたりするなんて、数年前までは考えられなかったことです。そういう勢いのある出展者が毎回出てくるので、主催者側も楽しいですよ」
※カナイセイジ :国際的な評価を受けた『ラブレター』をはじめ、国内外で注目を集めるボードゲームデザイナー。
※林尚志 :カナイセイジ氏と同様、国内外で評価されるボードゲームデザイナー。『ひも電』『トレインズ』など多数の代表作を持つ。
※世界印刷 :ボードゲームやカードゲームを、本場ドイツのゲーム会社も利用している海外工場で円滑に印刷するための仲介を行う。『ゴーストハンター13』などで知られるゲーム会社cosaicなどが運営。
──今後もボードゲームは多彩なクリエイター、多彩な作品が出てきそうですね。出展側に、刈谷さんが期待することはなんでしょう。
刈谷 「基本的には、みなさんが好きなように作ってもらえればいいと思います。個人的な期待としては、ジャンルの垣根を超えるような作品が出てくると面白いんじゃないかと思っています。『アンドールの伝説』※なんかは、ボードゲームとTRPGの両方の魅力を備えているわけで。ゲームマーケットで言えば、BakaFire Partyさんの『惨劇RoopeR』※も「ループ物アドベンチャーゲーム」をボードゲーム的にうまく処理してあるのが魅力的です。
余談的になりますが、ジャンルの垣根を超えるという意味ではジャイアントホビーさんの『DORASURE』※のアプローチも面白いですよね。本格的なメタルフィギュアが付属しているんですが、立体物のイベントであるワンダーフェスティバルでもお見かけして驚きました(笑)」
※アンドールの伝説 :プレイヤーが担当する勇者と、アンドール王国に襲い来る怪物たちとの戦いをテーマとする協力型のボードゲーム。シナリオに従ってゲームマスター不要で冒険を楽しめる。西洋風ファンタジーTRPGに近い面白さを味わえる。
※惨劇RoopeR :いわゆるループ物のボードゲーム。プレイヤーは惨劇に囚われた「主人公」側と、GMのようなゲーム進行役でありながら主人公側と対立する「脚本家」に分かれて、惨劇事件の回避を巡って争う。
※DORASURE :邪悪なドラゴンに襲われる街を救うために集った冒険者となって戦う、国産の協力型ボードゲーム。メタル製ミニチュアなど小物にもこだわった作品。
TCG解禁、TRPG新企画と拡大策を次々展開
──同人TRPGでもジャンルを超えた動きに意欲的なサークルが出てきていますね。たとえば『ガラコと破界の塔』※の制作サークル「ロンメルゲームズ」さんも、フィギュア制作を検討していると聞いています。こうした同人TRPGについて、ゲームマーケットではどのように捉えているのでしょうか? 2014秋で創設されたゲームマーケット大賞ではTRPGが対象外で、やはり影が薄いのかなという印象を受けました.
※ガラコと破界の塔:宇宙の孤島となった惑星で、人類を滅ぼそうとする狂った機械たちとメカに乗って戦う同人TRPG。武器となるメカも、成長も、情報も全て金で扱われるハードボイルドな世界観や魅力的なシステムが人気を博している。
刈谷 「TRPGは私たちもぜひ盛り上げたいと思っているんですよ。整理する意味で、まずゲームマーケット大賞の狙いから説明させてください。大賞の創設を含めて、今、僕らが取り組んでいるのは“拡大”です。とにかく来場者を増やし、ボードゲームやTRPGなどのアナログゲームという文化を広く定着させたい。
2000年代に台東館で開催していたような小規模なゲムマの方がアットホームで良かったという声も耳にしています。ただ、そうした役割は各地のボードゲーム会やコンベンションで補えるものです。ゲームマーケットには、ゲームマーケットでしか果たせない役割を追求する責任があると考えています。当然ですが無計画に拡大するわけでなく、業界に悪影響を与えないよう配慮しながら拡大を図っていくつもりです。規模が大きくなれば、テレビやラジオといったメディア取材も増え、従来のファン層を超えて幅広い一般層にアナログゲームの魅力を波及できるはずです。そうなればゲームを作る皆さんの売上にも好影響を与え、継続してクオリティの高いゲームを開発する環境に貢献できるはずです。
そうした拡大策の一つとして、次のゲームマーケットではTCGの制限を解禁します。実は今までの規模では、TCGという巨大ジャンルに飲み込まれる懸念があり、TCGメーカーから出展を打診されても断らざるを得ない状況でした。しかし、本来ゲームマーケットはすべてのアナログゲームが集まるイベントであるべきです。ようやく東京開催の来場者は7000人を超え、『そろそろ大丈夫だろう』という自信がつきまして。
もう一つの理由として、『真空管ドールコレクション』※のような、TCGと普通のカードゲームが融合したようなゲームが登場してきたということもあります。『じゃあどこまでがセーフでどこからがアウトなの』と聞かれたら、線引きが難しいわけです。『もうめんどくさいから、そもそもの規制をとっぱらおうぜ』と。
次回には、会場に幾つものTCGメーカーが出展し、TCGを遊べるようになります。TCGファンの皆さんと、ほかのアナログゲームのファンの皆さんが融合するのが楽しみです」
※真空管ドールコレクション :JHラボが開発するインディーズTCG。レトロフューチャーな世界観で、心を持った真空管ドールのメーカー企業となり、世界一のドールメーカーを目指す。
──TCGファンの関心も集めるとなると、ゲームマーケットの規模はますます拡大していきますね。しかし、そうなると心配になるのがTRPG。ますます印象が薄くなりそうですが、TRPGへのてこ入れはないんでしょうか?
刈谷 「もちろん、僕らもTRPGブースを増やしたいという思いは前から持っていました。しかし、ボードゲームの勢いもあって影が薄くなりがちだったんですね。そうしてしまったのは運営側の責任もあるかもしれません。ただ、ゲームマーケットには試遊卓があり、(同人TRPGの主たる発表の場となっている)コミックマーケットとは違った盛り上げ方ができます。また、『TRPGには関心があるんだけど遊んだことはない。でもボードゲームは遊んでいる』──そうした人がTRPGの楽しさを知る橋渡しの場に、ゲームマーケットがなれるとも思っています。
そこで、まずは会場にTRPGを遊べる場所を設置します。JGC(ジャパン・ゲーム・コンベンション)※さんの協力を得まして、『クトゥルフ神話TRPG』や『ソード・ワールド2.0』、『トーキョーN◎VA』、『迷宮キングダム』といった名だたるシステムを、1時間程度で遊べる体験卓を用意することができました。もちろんTRPGのセッションまるごとは体験できませんが、TRPGの楽しさ、システムごとのエッセンスを感じてもらえるでしょう。
こうした取り組みが、TRPGの出展者さんにとっても魅力的に映れば幸いです。ご意見などもどんどんお寄せいただきたいですね」
※JGC :TRPGを主としてアナログゲームを遊びつくす日本最大の宿泊型ゲームイベント。メーカーによる公式コンベンションや、ゲームデザイナーが明かす会場でしか聞けないトークショー、一般参加者同士のセッション開催スペースなどが用意され、まさにゲーム三昧の日々を過ごせる。毎年、TRPGの新作が数多く発表されることもあり、TRPGファンの熱い視線を集める。
──そう言っていただけると、安心しますし、ますますゲームマーケットが楽しみになります。では、話が戻るようですが、ゲームマーケット大賞でTRPGが対象外となった理由はなんなのでしょうか?
刈谷 「率直に言って、TRPGを評価・選定できる人がいない、というのが理由です。僕らが大賞の創設に当たって一番気にしたのは“公平性”でした。このため、ボードゲームにしても僕らアークライトの商品は選考対象から外しています。これには社内から『そこまでしなくても』という反対意見もあったんですが、皆さんに納得いただける大賞をということで現在の形にしました。
審査員についてもゲームデザイナーはもちろん、メーカー関係者やショップ関係者などを省きました。朱鷺田祐介さんはTRPGのゲームデザイナーではありますが、ボードゲームデザイナーではないこと、またメディア(4Gamer)の方が審査員にいてほしいという意図で加わっていただきました。4Gamerさんはゲームマーケットのようなアナログゲームイベントを継続的に取り上げてくださっていますので。残りのお三方も、ゲーム研究家の草場純さん、国内屈指のボードゲーム情報サイトの管理者である小野卓也さん、アマチュアでは国内最大規模のボードゲームイベントを主催する秋山真琴さんと、デザイナー色、メーカー色を廃した方々です」
──徹底的に不公平感が生まれないよう、気を遣った審査体制なんですね。ではTRPG業界で、と考えると……難しそうですね。
刈谷 「そうなんです。TRPGとなると、こうした非クリエイター・非メーカーで審査員になれる方が思い浮かばないんです。もちろんクリエイターの皆さんは公平に選定してくださる方々ばかりですが、ボードゲームのように憶断を招くことのない公平性を担保できるかと言えば難しいですよね。
TRPGのゲームデザイナーである朱鷺田さん以外のメンバーであれば、いまの選考員でもTRPGを評価することはできますが、みなさん正直に言ってさほどTRPGに詳しい方々ではありません。そうした状況で『TRPGも審査対象です』とするのは、逆に誠実ではないと考え、正直に対象外と明記した経緯があります。今後、環境が整えばTRPG作品も審査対象にできると思いますし、そうした裾野の広がりを期待したいところです。
また、ボードゲームブースで予想だにしない行列ができるように、本当に影響力のある作品は大きな話題になるものです。対象外のジャンルでも、そうした作品が出れば、枠にとらわれず特別表彰などを考えたいと思っていますので、ゲームマーケットでもどんどん新作TRPGを発表していただけたらと思います」
──なるほど。TRPG業界も色々な広がりが期待されますね。では、TCGの参入や、TRPGの公式体験卓、ゲームマーケット大賞など活発に動いているゲームマーケットですが、今後の目標について教えていただけますか。
刈谷 「あくまで個人的な目標ですが、もっともっと拡大させたいですね。数字としてはとりあえず来場者2万人。
先ほども触れましたが、TRPGとボードゲームを融和していくような作品は増えつつあります。グループSNEさんの『ゴーストハンター13タイルゲーム』※がまさにそうですし、『ドミニオン』はボードゲームとTCGが融和した作品とも言えます。こうしたジャンルのファンがゲームマーケット会場に来てくれれば、交流が生まれ、裾野の広がりに期待できます。
また、人狼を大規模に遊んだり、いま非常に盛り上がりを見せているテキサスホールデム・ポーカーの大会を誘致したりしても面白いのではないでしょうか。将棋や囲碁、チェスだっていいですよね。ニコニコ動画で盛り上がっているゲーム実況のように、上級者のゲームプレイを観戦して楽しむという需要もあるかもしれません。そうした幅広いゲームが体験できるイベントに成長していけば、2万人という目標も夢ではないと考えています。
でも、来場者が1.5万人くらいになったら、僕は目標を5万人にすると思いますけど(笑)。目標を達成してしまうと、それで満足してしまいそうで怖いので」
※ゴーストハンター13タイルゲーム :根強い人気を誇るグループSNEの代表作『ゴーストハンター』シリーズの最新作。プレイヤーは、幽霊屋敷を訪れる探索者となって謎や恐怖に挑む。屋敷の一室を模したタイルやイベントのランダム性により、同じシナリオを遊んでも毎回異なるストーリーを体験できる。
──意欲的ですね! そう言い切っていただけると頼もしいです。TRPGもボードゲームもTCGも楽しいですからね、色々と遊んでみたいし、色々な人と遊んでみたい。今後のゲームマーケットの進化が楽しみです。
刈谷 「最後にTRPG every dayさん向けの話をさせていただきますと、同人TRPGでも、同人ならではのチャレンジスピリットあふれる作品が見たいですね。既存作品に縛られず、『これをTRPGと呼んでいいの?』というくらいのぶっ飛んだ作品が生まれると楽しいなと思っています。そういう既存の枠にはまらないアイデアが、新しいジャンルを作っていくと思いますので、そういう作品を個人的には期待しています」
──そんな作品を私も遊んでみたいです。今日は忌憚なくお話しいただき、ありがとうございました!
というインタビュー、いかがだったでしょうか? 取材していて、ゲームマーケット運営側の飽くなき拡大への意欲、挑戦への強い意志が伝わってきました。取材でも伺った、TCGの参加、TRPGの公式体験卓という変化が盛り込まれたゲームマーケット2015春は5月5日(火・祝)、東京ビッグサイトで開催されます。当日は我々もぜひ取材兼アナログゲームを満喫しに出かけたいと思います!
TRPGの質問・疑問に答えるチャットを開設しています。お気軽にご参加ください。
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