メイン卓と各参加卓の物語が絡み合い、クライマックスへ──リンクコンベンションという醍醐味
人に変身できる動物「へんげ」をPCとして遊ぶTRPG『ゆうやけこやけ』(ゆうこや)は、発売から10年近くたって今なお愛される作品です(現在は販売停止中。インコグ・ラボさんより第2版といえる『ゆうやけこやけ リファイン(仮)』の構想が15年9月に発表)。11月に開催された「霜月町騒動記」(クリックで主催のTOY★BOXウェブサイトへ)は、そのオンリーコンベンションというのもさることながら、イメージポスターをはじめとする力の入れようで、広報当初から注目を集めていました。
秋も深まる11月の頭のおはなし。山あいにある小さな町、霜月町。
今日はみんなが町を新しくするために考えたシンボルのお披露目の日。
しかしそのお披露目会に突如と現れる謎の集団ゲジゲジ団!
「我々はぁ!この町を征服する!」
そういうと新しいシンボルをバラバラにして町の真ん中に自分たちのシンボルにしてしまった!
その日から巻き起こる大騒ぎ!
喧嘩を売りまくる鬼!
女の子をナンパする河童!
観光案内をせがむフーテン宇宙人!
街中でイタズラしまくる道怪三兄妹!
取り壊される神社に現れる幽霊!
困り果てた町長さんが叫ぶ「だ、だれかなんとかしてくださーーーーい!」
町のシンボルをとりもどすため、町に平和を取り戻すため、へんげたちが立ち上がる!
コンベンション企画の発表とともに公開された募集テキストは実にわくわくさせるもの。開発や町おこしで変わろうとする霜月町で、ゲジゲジ団を中心とした騒動が巻き起こります。プレイヤーは、募集テキストにもある鬼や河童、宇宙人などの敵NPCを中心としたセッション卓のどれか一つに参加し、卓ごとに出される騒動に取り組みながら、時に他の卓に参加したり、他の卓から来るPCと協力して、敵NPCと対決することに。
対決といっても、そこは“ほのぼのろーるぷれいんぐ”ゆうこやですから取っ組み合いのバトルばかりとはなりません。鬼とはご当地ヒーローとして瓦割りなど正統派な対決をするものの、河童とは協力してナンパしまくり、宇宙人の観光雑誌づくりに協力して取材して回ったり──と対決どころか協力もしつつセッションごとの難題に取り組んでいきます。
これだけでも十分楽しいコンベンションになったでしょうが、今回は卓ごとのセッションが連携するリンクコンベンション※とあって、PCが他のセッション卓にも移動できるルールがさらにコンベンションを盛り上げました。「霜月町騒動記」では1日のうちに3サイクル(1サイクル=1セッションに相当するイベント)を行い、その都度、卓を移動できる仕組みにしていました。河童卓から女の子を探して(もちろんナンパ目的!)、宇宙人向けの観光雑誌を書くために取材目的で……と毎回多くのPCが卓を移動します。ゆうこやは、他PCやNPCと結んだ関係「つながり」が判定を底上げするリソースになるので、セッション卓を越えたつながりが大きな力になります。それだけでなく、キャラクター同士のつながりが増えてくると、自然と霜月町の住人らしく、生き生きとした設定になってくるのも嬉しいところでしょう。
※リンクコンベンション:一般には「複数のセッション卓が関連し合い、卓ごとの物語と、全体での物語が連動して展開する」コンベンションのこと。ただでさえ大変なGMが他の卓との連携も考慮して、緻密にしてダイナミックなマスタリングを要求される。それだけに単体のセッションでは難しい楽しみも期待できる。
加えて、メインストーリーが進行するメイン卓では、毎回各卓から参加者を集めて、ゲジゲジ団の首領と対決しました。このメイン卓をはじめ各卓でのイベントを予告するために、セッションの合間に新聞を模した号外が配布されたのも「霜月町騒動記」ならではの工夫。次にどんなイベントが起きるのか断片的ながら分かるので、プレイヤーさんが積極的に卓移動する理由付けになっていたようです。
こうして、コンベンション全体がまるで一つのパーティのように盛り上がった霜月町は、クライマックスに再開発に向かう町の変化を巡って大きな危機を迎え……各セッション卓で培ったつながりや成果を最大限に活かして、見事大団円を迎えます。その詳細は、現場の空気が伝わってくるTogetterのまとめ記事(外部リンク)をぜひご覧になってみてください。ボリュームはありますが、皆さんの感情移入が伝わってくるので、読み進めるだけでも参加者のように一喜一憂してしまいます。
こういうリンクコンベンション、次の機会があればぜひ参加してみたいですよね! とはいえ、これまで説明しただけでもお分かりの通り、これだけの規模でリンクコンベンションを開催するのは容易ではありません。そこで、今回のイベントを主催した「TOY★BOX」のいぬふくさん(@inufukusan)に、企画段階からの裏話、工夫を伺ってきました。続けてお楽しみください!
PCに「霜月町の住人」になってもらいたかった──主催者いぬふくさんインタビュー
──「TOY★BOX」さんはこれまで多数のコンベンションを開催されてきましたが、今回リンクコンベンションを開催しようと思ったきっかけは何だったんでしょうか?
いぬふく「きっかけが2つありました。1つは2014年5月、今回メイン卓の語り手(ゆうこやにおけるGMのこと)をしてもらったドントさんが開催したグランクレストのリンクコンベンション『サーガ・イン・グランクレスト』。全6卓、6つの国が大陸で覇を争うという内容で、大変に面白かったのです。
もう1つは自分がここ2年ほど回し続けている『にゅー・しねま・ぱらだいす』という、ゆうこやのシナリオです。町にある小さな映画館を舞台とする物語で、この2年間で19回やってきました。そのセッション毎に参加してくれたへんげたちを全て記録しているんですが、町にどんどんへんげが増えていく、ということが単純に楽しかったんですよね。それで『町なんだから他のへんげたちが住んでいてもおかしくない』『だったら、参加者みんなが町の住民となって実際につながりを持ったり、夢を投げ合えたら楽しいのでは?』と思ったのが、今回の『霜月町騒動記』につながりました」
──いぬふくさん自身もリンクコンベンションを主催するのは初めてだったんですよね? 開催までの下準備はどのように進めたんでしょうか?
いぬふく「企画を実際に形にしたのは今年の2月ごろですね。リンクコンベンションのノウハウがあるドントさんに相談し、まず『どんなことがしたいのか』を詰めて、卓のコンセプトに合うGMさん、実際に動いてもらうスタッフにお声掛けしました。GMやスタッフの陣容が確定したのが半年前、サイクル制度や各卓の性質など具体的な仕掛けを形にしていったのは3カ月前からですね。
コンセプトとして、とにかく色んなところに行ける・選べる、沢山のへんげとつながりを結べるということを魅力にしたかったので、サイクル毎の卓間移動、サイクルの時間管理、つながりを深める機会については事前にルールを決めて、ガッチリ管理していました。特に時間管理が重要で、一つ崩れると全てに影響が出てしまう。文字通り分刻みのタイムスケジュールを作っていたのですが、その通りに各卓のGMさんが頑張ってくれました」
大枠から細部までこだわった「霜月町騒動記」の工夫(一部)
各卓にライバルへんげを設定。1つの大きなシナリオを基に、「ヒーロー的な対決シナリオ」「ナンパという名目のリソース集め」「各イベントデータ、ゲーム性を重視」、「町中を漫遊する」、「大人たちの立場からドラマを展開する」というコンセプトを作り、その達成可能なGMを選定した。普段からコンベンションを開催し、多くのGMとの“つながり”があるTOY★BOXの強みが活かされた。・セッション卓以外とつながりを結べる仕掛け
セッション内でも卓を移動できるルールとした他、昼食を一緒に取ったプレイヤーのPCとつながりを結べるルールに。他卓の状況・物語をプレイヤーが共有する効果もあったようだ。コンベンションでは卓ごとの進行のズレも生まれるので個別に昼食を取ることが多いが、『霜月町』は厳密な時間管理でそれを可能にした。
また、PCだけでなく、町長とメイン卓の敵NPC以外は、どのNPCとも、それどころか運営側のスタッフともつながりを結べた。コンベンション全体の一体感にもつながっていたようだ。・自作のキャラクターシートを用意
今回は、弱点と追加能力以外を記載済みのPCで遊ぶ、いわゆるクイックスタート方式。このため、セッションに時間をとれるようにキャラクターシート、つながり、夢を1枚の用紙で管理できるよう、運営側が自作している。「霜月町の住民票」とも位置付けたキャラクターシートは参加者の評判も良かったという。
・「夢」に鈴を使用
ゆうこやで優れたアイデアや、魅力的なロールプレイをすると、GMや他プレイヤーからもらえるリソース「夢」。本来ならキャラクターシートに記入するだけのところを、指先ほどの小さな鈴(用意された鈴はなんと6,000個!)で表現。各卓で誰かに夢を投げるたびにチリンチリンと鳴るのは、ゆうこやらしい雰囲気づくりに一役買っていた(参加GMの一人、YOKさんのアイデア)。
──卓同士が連携するリンクコンベンションと、“つながり”が重要なゆうこやの相性は抜群だったのではないですか? リソースとなる夢は、通常では考えられない数が飛び交ったそうですね。
いぬふく「自分のセッション経験に、今回の仕掛けを加味して、おそらく夢の総数は1卓1000、1人あたり200(GM含めて)程度と想定していました。オリジナルシートも、つながり欄の増加に加えて、夢も250までは総数を管理できるようにしてありました。
しかし、1人あたりの夢が4000(!)を超えたり、欄を増やしたのに『つながりシートが全部埋まった!』との声が上がったり、運営スタッフとメイン卓GMが共謀してラストにボーナス夢を投げるといった数多くの想定外がありました。それらは皆が楽しんだ証明でもあるので嬉しい想定外でしたね。結果、想定の3倍近い、14,157もの夢が集まったわけです」
──14,157!? 良い意味で参加者全員がはっちゃけた感じですね(笑)。今触れられたように、運営側がPCに夢を投げられるなど、セッション外の存在が実際にセッションに関われるルールというのも興味深かったです。夢を投げる以外に、運営側の皆さんの担当内容を教えていただけますか?
いぬふく「運営側には主に3つの役割がありました。
まず『メイン卓の管理』。これは各卓でへんげたちの相手をするGMです。
次に『町役場の連絡係』。号外の配布、卓間の移動の誘導、各語り手・へんげからの質問要望の吸い上げ、卓間を超えるつながりのやりとりの中継役など、このセッションにおいての動線を一手に引き受ける存在です。2人用意していましたが、今回のセッションで一番全体を見れたポジションでしたね。
そして『TOY☆BOXスタッフ』。セッションには関わらず、会場準備、小道具の用意、弁当手配など庶務面を一括して担当してくれる縁の下の力持ちです。『私は何も関わらない宇宙だ、だが君たちを見ている』とうそぶく一方で、弁当屋を開く(実際にお弁当を販売しました)、全員につながりを取りに行くなど、しっかり参加して、コンベンションを盛り上げていましたが(笑)
彼らのおかげで、私は主催と言いながら、当日は最終判断役とクライマックスの語り手以外、ほぼ何もしていないです。皆様あってのセッションでした」
──なるほど、その連携もあって開催後のツイートは参加者皆さん、感動冷めやらぬ様子で語っていたのが印象的でした。TRPGはもともと毎回独自の体験が楽しめるものですが、リンクセッションほど大掛かりなコンベンションとなると、とりわけ特別感が強かっただろうと思います。いぬふくさんが振り返って、印象的な出来事があれば教えてください。
いぬふく「これは『全て!』ですね。別々の卓の2羽の兎が姉妹になりました。3匹いた狸全員がたぬきばやし※で集まって、協力してゆめまぼろし※を使うシーンがありました。巨大なロボットを動かすために、セッション卓を超えて全員が夢を投げたりもしました」
※たぬきばやし、ゆめまぼろし:ゆうこやで狸のへんげが使える特技。「たぬきばやし」は仲間の狸とともに腹鼓を響かせて電化製品などの文明的な製品を使えなくする、「ゆめまぼろし」は対象を違う場所にいると誤解させる幻に包み込むという効果。どちらも夢が10以上必要となるため、普通のセッションでは容易に使えない
いぬふく「強いて一つを挙げるなら、一番印象に残ったのはやはりクライマックスです。今回、『町を再開発する』という立場で、唯一、人間のPCがいました。クライマックスでは、彼とかつて友達だった土地神が、再開発を巡ってつながりを失って暴走してしまう。PCたちは町と土地神の狭間で葛藤することになりました。町の再開発を進めてきたNPCの町長は『化物』と土地神をなじった。そこで、本来再開発推進派であるはずの彼が『彼女はバケモノじゃない、私たちの友達だ!』と反論したんですね。本当にやって良かったと思った。そのプレイヤーさんは帰られる時にも『最後にホロリときた、ありがとう』と言ってくれて、がっちり握手して喜び合ったんです」
──皆さん掛け替えのない思い出になったでしょうね。それだけ好評だった『霜月町』ですが、主催者側としては欲も出ますよね。「もっとこうすればよかったな」という点はありますか?
いぬふく「今回のコンセプト上、仕方ない部分でもあるのですが、卓によって人数の増減が激しすぎる、という点が課題だったと思います。もちろん事前に想定はしていたので、各GMと認識合わせをして、どこまで妥協できるかを詰めて。ソレ以外においては概ねこの規模のリンクとしてはまとまったのではないかと」
──なるほど。次回リンクコンベンションへの期待が高まりますね。最後に、これを見て「TOY★BOX」のコンベンションに参加したい!って方も多いと思います。今後の活動予定がお決まりでしたら紹介してもらえますか?
いぬふく「現時点では未定なんですが、来年もリンクではないにしろ、ゆうこやオンリーコンベンションを開催します。その他にも1~2回ほど相模大野で開催できれば、と思うのでぜひ遊びにきてください。よろしくお願いします」
──次回のコンベンションも楽しみにしています。ありがとうございました!
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