近年、同人TRPGサークルから次々に人気のオリジナルTRPG作品が登場しています。『銀剣のステラナイツ』で商業デビューを果たしたサークルどらこにあん、スチームパンク飛空艇TRPG『歯車の塔の探空士』を頒布したサークル六畳間幻想空間など、商業からも注目されるサークルが増えています。
中でも創作・頒布にとどまらず、自作品のオンリーコンベンション、ドレスコードを採用したテーマコンベンションなどと活動を広げている同人サークルの1つが、グループSGRです。その彼らが4月20日に新作体験会を開催すると聞き、取材に伺ってきました。何しろ、この新作が世に出る経緯が独特なのです。
◆同人サークルなのに作品アイデアを一般公募
同サークルの処女作『ピカレスクロマンTRPG』は、悪党だけが住む街を舞台に、PCも悪党となってシノギを奪い合うという裏社会的なセッションを楽しめる作品でした。PC同士は協力してターゲットの財産を巻き上げるという目的のほかに、1人だけ裏切り者が混ざっているという正体隠匿ゲームに似た仕掛けもあり、最後まで油断できません。
この成功を得て、彼らが次なる作品を世に出すべく仕掛けたのが、同人としては異例の企画「一緒にTRPGを作りましょうコンテスト」(リンク:公式サイト)でした。
一緒にTRPGを作りましょうコンテストを開催します
当選者の方には一枚目の特典をプレゼント!
死ぬほど面白いアイデアはあるが作り方がわからん! という方を応援します!この世に面白いシステムを増やすため拡散おねがいします!
審査する人は三枚目以降の奴を作りましたhttps://t.co/IFp5iwalks pic.twitter.com/iUeQX93BpX
— シグレ@グループSGR代表のほう (@groupsgr) February 28, 2018
当然ですが、同人誌を制作するにはさまざまな作業や費用がかかります。作業でいえば執筆の他にも、編集・DTP作業、販売や委託といった流通の手配、費用はイラストの依頼料、印刷費用、コミケなどのイベント参加費が挙げられるでしょう。TRPGとなると、さらにルールやデータの魅力やバランスを検証する必要もあり、一冊の同人誌まで仕上げる労力は並大抵のものではありません。
「それだけに世に出ていない魅力的なアイデアがあるはず」と考えて同サークルが呼びかけたのが「一緒にTRPGを作りましょうコンテスト」だったのです。前述した作業や費用は全てグループSGRが受け持つため、企画者はゲーム制作により集中できることになります。しかも印刷部数に応じた印税も入る仕組みと、報酬にも配慮。こうした待遇もあって、2018年2月に企画を公表した後に多数の応募があり、複数の企画が採用されました。
とはいえ、商業でも企画が発表されてもなかなか販売まで至らないケースも珍しくありません。また、同人活動は自分の好きなものを作るもの。公募という形でつながったメンバーで果たして上手く制作が進むのかと不安も湧きます。しかし、そんな不安は杞憂とばかりに完成に至ったのが、今回の新作、心傷外装TRPG『コンヴィクター・ドライブ』なのです。
◆主人公は、トラウマを力に変えるヒーロー
主人公であるPCは、“コンヴィクター”と呼ばれる強力なパワードスーツの着用者。このスーツは、体内に注入されたナノマシンと感応して生体エネルギーを引き出し、現代の技術では考えられない能力を発揮します。
ただ、コンヴィクターは誰でも使える技術ではありませんでした。ナノマシンが稼働できたのは、“心の傷”を持つ着用者だけだったのです。辛い過去を抱えながらも「同じような思いをする人を1人でも減らしたい」と決意し、トラウマに向き合える人物のみが、コンヴィクターを着用し、人々の安全と平和を守れるのです。
そんなPCが活躍する舞台は、現代日本。我々の見知った現代社会のようで大きく違うのは、“機工革命”と呼ばれる技術革新が21世紀初頭に起こり、パワードスーツをはじめとするメカトロニクスが大きく発達していることです。PCの武器であるコンヴィクターも、そうして生まれた存在です。日本は、この技術を取り入れた生活のモデルケースを作ろうと、政令指定機工都市「よこはま区」を設立しました。
しかし、優れた技術や制度は悪用もされるもの。同区ではメカトロニクスを悪用した機工犯罪も横行し始めました。警察組織では対応しきれない最新の犯罪に対抗するため、PCの所属する対機工犯罪治安維持チーム、通称“DRIVE”が日夜、活動しています。
◆自PCを語りたい!と思わせるシステム
システムでは、着用するスーツを4つのモデルから選んで作成します。オールマイティな活躍ができる「マイティ」、攻撃力の高い狙撃手「シューター」、ダメージを引き受けるタンク役の「ストレングス」、移動に長けた「ランナー」。モデルの選択である程度の方向性は決まりますが、さらにパーツを組み替えることで、同じモデルでも能力は大きく変わります。また、ミドルフェイズで判定する際に、そのパーツが役立つようにロールプレイすればボーナスが得られる仕組みもあるため、単にデータだけでなく「このPCでどのように活躍する場面を作るか」を考えながらPCを作成することになります。
そして本作の根幹ともいえるトラウマは、「フラッシュワード」と「事件背景」の2つの要素で表現されています。
フラッシュワードは、コンヴィクターをフル稼働させる際にPCが発するキーワード。後悔している発言や失った人物の名前、トラウマとなる事件の名称など、一言でトラウマが想起される単語を設定します。この単語を自ら口にすることで、コンヴィクターをフル稼働させるエネルギーを引き出すのです。
ただ、非常に強力なコンヴィクターですが、敵も類似した技術を使ってくるため、ピンチもしばしば起こります。そんな絶体絶命のときに、さらなる力を引き出すのが「限界駆動」。主にPCのHPがゼロになった時に発動でき、即座に強力なアクションを可能にします。その代わり、PCはトラウマの記憶が鮮明に蘇ってしまいます。それだけでなく、この記憶はコンヴィクター同士のリンクを通じて、他のPCにもフラッシュバックのように伝わります。このため、プレイヤーはPCの自分語りができるというわけです。この時に、事前に設定した「事件背景」欄の内容を読み上げることになります。
これが実に楽しい! 体験会では、最初に倒れたPCが魅力的な設定を心傷詳細に設定していたことで、プレイヤーのPC語り欲求に火が付き、どの順番で倒れて設定を語るか、相談してしまいました。限界駆動は強力な行動なので、倒れながらもクロスカウンターのように相打ちを図れます。ルール設定を担当したシグレ氏も「プレイヤー同士で相談してよいので、ぜひ魅力的なバトルを演出してほしい」と言います。
体験会ではバトルの難易度を高めにすることで、全員が限界駆動を体験できるようにしていましたが、これはあくまで単発セッションでの想定。キャンペーンの場合、セッションのたびPCの1人にフォーカスして、1人ずつ限界駆動を通じて背景設定を明らかにしていく──という演出を推奨しているとのこと。特撮ヒーローのテレビシリーズのようなドラマを楽しめそうです。
◆5卓が埋まった新作体験会、頒布ももうすぐ!
イエローサブマリン秋葉原RPGショップで開かれた新作体験会は、募集枠いっぱいの5卓が埋まる盛況ぶり。コンヴィクター・ドライブの企画を応募し、世界観設定を担当した乃継アラタ氏(@NTG_works_33)、グループSGRの代表シグレ氏(@groupsgr)、収録シナリオを執筆した田中りとます氏(@ritomas_tanaka)らがGMを担当。いずれの卓も、熱いヒーロードラマが誕生していました。
この新作は5月16日より全国のイエローサブマリンで委託販売の他、5月末のゲームマーケット2019春(リンク:公式サイト)にも出展するとのこと。この熱い新作同人TPRGに触れたい方は、チェックしてみてください! もっと情報を知りたいという方は、先行体験会のまとめ(リンク:toggeterまとめ)へどうぞ!
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