「市民、幸福は義務です」
ディストピアTRPGの先駆けとも言える「PARANOIA(パラノイア)」日本語版の発売が正式決定したのをご存知ですよね。これまで日本では未訳ながら目敏い人々の手によって雑誌やWebで紹介されてきた名作。近年には有志によるプレイ動画が多数制作され、さらに知名度が高まっています。
……おっと、知らない? ああ、あなたのセキュリティクリアランス※は「赤外(インフラレッド)」でしたか。なら、知らないのも無理はない。「SUOU-Y-4D4L-1」が手短に説明しましょう。
※セキュリティクリアランス:パラノイアにおける一種の階級。下位の者は上位の者に従わねばならず、逆らうと反逆者に一歩近づくことになる。中でも「赤外」は最下層である。
パラノイアは、コンピューターに支配された地下都市を舞台に、トラブルシューターとなって都市の反逆者を取り締まる近未来TRPGです──というシンプルな表現では、説明は不十分でしょう。なにせ、支配者たるコンピューターは狂っていて、ターゲットとなる反逆者は実際には存在しないかも知れないというカオスな有り様。しかも、PCたちの正体は、市民を装う反逆者──いつ処刑されてもおかしくない状況なのです。
PCたちは反逆者とバレて処刑されないために、疑心暗鬼の中、あるか分からないトラブルを見つけ出し、隙あらば他のPCやNPCを反逆者に仕立て上げ、シュート(撃破)しなければなりません。
……え? 友人たるコンピューターは狂ってなどいないって? おいおい、待ってください、私は貴方のために正しく説明したかっただけで──(ZAP!※)
──前任のクローン※が不心得な発言をしたようで、失礼しました。「SUOU-Y-4D4L-2」はもちろん、友人たるコンピューターを疑ったりなどしません。完璧で幸福な市民としてコンピューターに奉仕しますとも。
というわけで、予約締め切りも間近に迫る中、「PARANOIA 日本語版」を発売する「ニューゲームズオーダー」さんに突撃取材してきました。突っ込んだ質問にもかかわらず、快くご回答いただいた内容を緊急レポートします!
※ZAP!:処刑用のレーザー銃の発射音。PC間でZAP!ZAP!と連呼する展開もパラノイアの楽しみの一つ。
※クローン:パラノイアのPCは複数のクローンを持ち、一定回数までは記憶と精神をコピーして蘇ることができる。いわばシューティングゲームの残機であり、それだけに処刑銃の引き金は軽くなりがち。
いきなりですが、予約特価で5000円、正式販売は書籍6480円って高くないですか?
TRPGのルールブックは、文庫ならば1000円前後、A4版などの高いものでも6000円前後です。先行予約なら冊子版+PDF版で5000円とお得ではあるのですが、やはり高めの価格帯なのが気になるところ。販売元のニューゲームズオーダーがこの価格帯に設定した理由は「日本語版を確実に実現する」という強い思いだと言います。
「卓上ゲームの収益性は一部の例外を除き、高くありません。実際に、他社のゲーム製品化の過程で、収益性について楽観的な見込みを持って着手し、結果ユーザーの皆様に対して約束したサービスを供給できないという例を数多く目にしてきました。だからこそ現状を厳しく捉え、『日本語版を確実に実現する』ことを大前提として、価格を検討してきました。
その際に、鍵となったのが、やはり本作への思い入れが深い『コアユーザーの皆様』の期待に応えることです。少数の方であってもそれなりの価格をお支払いをいただくことで『確実にお届けする』ことが最善と考え、今回の価格に決めました」(ニューゲームズオーダー)
また、本作は米国でも元々40ドルと高めの価格設定。このため、当初から大きな価格変更が難しいという理由もありました。
今回翻訳されるのは、2009年に発売された「25周年記念版」。「第二版のテンポ良く軽量化されたアプローチを保ちつつ、第一版の険悪で滑稽なトーンを再強調した版」である第四版をスリムダウンしている。ちなみに日本でよく遊ばれているものは第ニ版ベースが多い。本作は第二版との互換性はないが共通点は多く、より遊びやすくなっていると言える。
舞台となる時代は、第二版の20年後に当たるコンピュータ歴214年。この時代推移による社会の変化も楽しみなところだ。
そもそもニューゲームズオーダーさんを今回、初めて知ったんですが、どんな会社なんですか?
ニューゲームズオーダーは、2009年に創業した比較的新しいボードゲームのメーカー・問屋です。2012年末頃から自社製品出版事業に本格的に着手し、現在は年10個ほどのハイペースでボードゲームを出版しています。タイトル数で言えば、ホビージャパンやアークライトに次ぐ数を出版する急成長の会社です(すいません、私も初めて知って驚きました……)。
「ホビーショップでRPG書籍を御購入される機会がある方であれば、横のコーナーでヨーロッパ系のボードゲームが販売されているのをご覧になったことがある方も多いのではないでしょうか。近年こちらに日本語版製品が増えていますが、それらを出版するメーカーです。当社製品の多くは、絶版となった過去の名作ゲームを厳選し、復刻したものです。畑は異なりますが、今回のパラノイア日本語版も、当社の得意とする海外卓上ゲームのローカライズのノウハウを反映したものになります」
ニューゲームズオーダーの商品ラインナップ
主力商品はボードゲーム。その内容は、ヘビーゲーマー向けの物から、短時間のファミリー向けゲームと幅広い。
最新作の一つは、フェンシングをモチーフにした2人用ボードゲーム「アン・ギャルド」日本語版は、間合いと技、少しの運を駆使して勝負を競う対戦型ゲーム。
また、参加者で1つのおとぎ話を作っていく名作カードゲーム「ワンス・アポン・ア・タイム」の日本語版も、同社がイエローサブマリンとコラボレーションして制作した。手札を軸に、想像力をフル活用して、その場その場で物語を作っていくというシステムは、TRPGプレイヤーのツボにも刺さるはず。
ボードゲームメーカーですと、TRPGは分野違いの印象も受けますが、TRPG商品、しかもパラノイアを手がけたのは何故でしょうか?
ニューゲームズオーダーの基礎の一つは十数年前、同社執行役員の吉田さんや訳者・沢田さんが学生時代に参加していたゲームサークルでした。そこではボードゲームはもちろん、TRPGも頻繁に遊ばれていました。中でもパラノイアには「根底の部分では、自分たちのゲームに対する考え方に大きな影響を与えるほどの影響を受けた」と吉田さんは言います。
それだけに個人的に日本語版を待望していたのに、なかなか出ない。そこで版元に問い合わせたところ版権が浮いていることが分かったのが発端でした。ボードゲームの製作予定が立て込んでいたにもかかわらず、「自分達にとって思い入れのあるタイトルを復活させるのがニューゲームズオーダーの柱」(吉田さん)という思いから初のTRPG商品を手がけることに。その実現は、同社がローカライズのノウハウを持っていたこともさることながら、十数年前から続く「思い」が基底となって支えていました。
予約から販売まで間が空くのが少し不安なんですが、制作状況はいかがですか?
7月末の予約終了から、PDF提供予定の10月末までは3カ月ありますが、すでに原稿はほぼ完成し、ブラッシュアップの段階にあります。
「国内のパラノイアの普及において長年に渡り大きな役割を果たされた『奉仕の会』様の監訳を受け、原稿はすでに実プレイに耐えるレベルで全ページが完成。現在は校正段階(訳語の厳選やクォリティアップ)に入っています。制作進行状況は、必要があれば随時リリースを検討したいと考えています」
ちなみに予約は、29日時点で787冊。実はニューゲームズオーダーは公式サイトで「次のサプリメントなどの展開には予約注文で1000部ほどの売上が必要」と正直に書いてくれていたのですが、あと200冊ちょっととかなり現実味を帯びてきました。
また、同社もこの勢いに応えて、7月末予定だった予約締め切りを8月10日まで延長。これまで要望が多かったというコンビニ決済支払い/ペイジー支払い(振り込み)で追加予約を受け付けます。なお、作業手数料が掛かるため、価格は5200円~5300円となる予定。クレジットカードがあるなら、現行サイトでの予約がお得ですので、31日までに駆け込み予約するのがオススメです。
■著者:Allen Varney (初版著者:Dan Gelber, Greg Costikyan, Eric Goldberg)
■訳:沢田 大樹
■監訳:奉仕の会■先行予約価格:5000円 (税込。冊子版+電子書籍版のセット)
■一般販売価格:電子書籍版 未定(5200円前後)、冊子版 6480円(税込)
■先行予約 電子書籍発送開始日:2014年10月31日
■一般発売日:2014年12月20日予定(電子書籍版、冊子版とも)
■事前予約注文用URI: https://gumroad.com/l/mtCLD
■特設サイト: http://paranoia.newgamesorder.jp/
以上、「パラノイア日本語版」緊急レポートでした。驚いたことに、予約がもう800冊近くまで来てたんですね! 600冊突破のニュースを聞いたのが28日、それから1日ちょっとで急激な増加っぷりです。TRPG界隈からのパラノイア日本語版への期待がビンビン伝わってきますね。また、製作元のニューゲームズオーダーさんからは今回取材させていただいて、改めて強いゲーム愛を感じ、本作へのこだわりにも期待が増すところ。私も一冊買ってますんで、パラノイアに興味がある皆さん、どうせなら皆で1冊買って、サプリメントも出してもらいませんか?
完璧で幸福な市民ならば、コンピューターが推奨する「パラノイア日本語版」を買いますよね。もちろん買うですって? 素晴らしい! それこそ正しい市民の姿です。それでは信頼の証として、コンピューターは貴方をセキュリティクリアランス「赤(レッド)」に昇格させましょう。下のタイトル画像から公式サイトへどうぞ。クレジットカードによる予約注文なら、当サイトで解説記事を参照するとよいでしょう。
TRPGパラノイア日本語版、予約購入の方法解説 七月末までに予約すればPDFと書籍がついて1480円オフ! – TRPG every day
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